原発事故以来、電気事業者の地域独占が批判され、発送電分離の議論が再燃している。しかし、電気事業者は法的に電力の供給義務を課されており、そのための十分な設備投資とメンテナンスを可能とする資金を確保すべく、独占が認められているのである。こうした独占経営の結果、役員や社員の間にモラルハザード的な行動や、社会常識とかけ離れた価値観がもたらされたことに対する批判があるのは当然だ。
しかし、その批判と産業政策の方法論としての地域独占に対する評価とは、冷静に区別されなければならない。仮に発送電分離を究極まで推し進めれば、事業者間の競争は激しくなり、平常時に余剰な設備を抱え込むことは事業の死活にかかわることになる。平常時の料金は安くなるかもしれないが、何らかの天災や事故があった場合、最終的な供給責任を果たせる事業者は存在しなくなり、ライフラインを守る事業は行政が直轄的に行うしかなくなる。
原子力発電も、経済性とともにエネルギーセキュリティの観点から進めてきた点を思い起こし、かつ今回の賠償スキームのように事業者は苛烈なペナルティを受けることが明らかになれば、民間企業はしり込みし、国有化オプションも検討されよう。しかし、国はそもそも賠償責任を負うことから逃げ回ってきたわけだから、国有化には国自身が消極的になるのではないか。結局は賠償責任の見直しを行いながら、民間企業にお鉢が回ってくるだろう。
先述したように、現在の東京電力を賠償責任を引き継ぐ主体と新たな電力投資を行う組織に分離するのなら、新たな組織は、最終的な供給責任義務を確実に果たすことができるよう、今よりも大規模化を目指す方向を模索すべきだ。従来のような比較的小さな地域割に安住した国内地域独占企業から脱皮させ、供給区域も広範囲にとることによって、原子力を含めた電源の最適配置や、電力の柔軟な緊急融通を容易化していく。経営規模のスケールアップは、電力システム投資への資金調達を低コストで可能にすることで、結果的に料金の安定化にもつながる。
また、国際的な視点も必須だ。発送電分離という主体を小規模化していくような方向の改革では、海外の強力なエネルギー企業との間で熾烈化する国際的な資源獲得戦争にも勝ち残っていけない。さらに、日本の優れた電力技術を海外に輸出するような国際ビジネス展開も、電力産業再編の目的の視野に入れるべきであり、技術力や人材の結集も必要だ。
こうした戦略的な再編を進めるためには、韓国が主要産業での企業再編を促し、独禁法も弾力的に運用してきたような戦略的な政策措置が必要になる。また、別の方法として、分離後の新たな東京電力や他の現行の電力会社は独立体のままにしながら、資本提携や持ち株会社を設立して経営連携を行うようなアイデアもある。その場合、持ち株会社は政府と電力ユーザーたる経済界が出資を行い、その配当金と上場後の政府株の売却によって賠償資金に充当していくことを法的に定めることも考えられよう。もちろん、こうした東京電力の分離に始まる再編の検討にあたっては、債権者や株主の扱い、資産などの譲渡方法、新しい大規模会社に対する規制体系など問題は山積している。しかし、今後のエネルギーセキュリティを、コスト面でも量的な面でも、確実に担うことができる強靭な民間事業主体を再構築すること、これが今求められる課題であり、小規模分散化していくだけが改革ではないのだ。
「WEDGE7月号」特集「それでも原発 動かすしかない」では、他に以下の記事が読めます。
◎来春にはすべての原発が止まる
◎日本経済のダメージはどこまで
◎国が前面に立てば動かせる
◎賠償スキーム 東電だけが悪者か
■「WEDGE Infinity」のメルマガを受け取る(=isMedia会員登録)
週に一度、「最新記事」や「編集部のおすすめ記事」等、旬な情報をお届けいたします。