安保激変

2018年9月28日

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村野 将 (むらの・まさし)

米ハドソン研究所研究員

拓殖大学大学院博士前期課程修了。岡崎研究所研究員などを経て2019年より現職。日本国際問題研究所研究委員等を兼任。専門は日米の防衛政策、核・ミサイル防衛を含む拡大抑止政策。

発射モラトリアム宣言に
日本向けミサイルは含まれず

 これまで米側は非核化交渉の第一歩として、北朝鮮側に核関連施設や製造済みの核弾頭・核物質のデータなどのリストを事前申告するよう要請していると言われる。これは米側が保有している独自のインテリジェンスと照らし合わせて、北朝鮮の核能力を正確に測定し、後の能力削減プロセスの実効性を担保するためであるが、北朝鮮側はこれに応じず、代わりに廃棄したり公開したりする施設を自ら一方的に指定しているというのが現状である。

 なお、固定発射台を解体すれば、衛星打ち上げを装った発射実験ができなくなると考えるのは誤りである。というのも、ロシアや中国は、これまでに弾道ミサイルの派生型を用いて移動発射台から衛星打ち上げを行ったことがあり、北朝鮮が同様の方式で発射を再開することは技術的に可能だからである。「核実験や大陸間弾道ミサイルの試射を中止する」とした4月20日の朝鮮労働党中央委員会第7期第3回総会での決定、その後の金委員長の「核武器の兵器化完結が検証された状況で、いかなる核実験や中長距離、大陸間弾道ミサイルの試射も必要なくなった」という発言に、衛星打ち上げが含まれていないことにも留意が必要である。

 また4月20日の決定で発射モラトリアムを宣言しているのは、中長距離ミサイル(=火星12・14・15)、つまりグアム以東に到達する米国向けの弾道ミサイルだけである。更に言えば、平壌共同宣言とともに署名された南北軍事分野合意書には、「南と北は地上と海上、空中をはじめとする全ての空間で軍事的緊張と衝突の根源となる、相手方に対する一切の敵対行為を全面中止することにした」とあることを踏まえると、日本向けとされる射程1000〜2000km超の準中距離弾道ミサイル(MRBM)“だけ”が発射モラトリアムの対象に含まれていない。これは前述した北極星シリーズ向けの固体燃料や移動発射台の増産傾向と合わせて、憂慮すべき状況である。

ミサイルの運用能力に関連する「3つの注目点」

 後述する核関連施設もさることながら、北朝鮮の能力を評価する上で重要なのは、製造済みのミサイル本体と移動発射台の数量、およびその生産関連施設である。これらの申告・査察・廃棄を求めることは、エンジン試験場や固定発射台の廃棄などよりもはるかに優先度が高い。逆に北朝鮮側からすれば、これらの能力を曖昧にし、生産・配備拠点を各地に分散させることで、米側の把握を困難にする狙いがある。

 北朝鮮のICBMを含むミサイル運用能力に関しては、ここ数カ月でいくつかの注目すべき動きがあった。

 第一は、7月末の時点で平壌の南・山陰洞の研究施設において、少なくとも1〜2基のICBMの製造が継続されているというものだ。同施設は、過去に火星15が組み立てられた工場で、上記の評価は米情報当局者や複数の民間研究者によって裏付けがとられている。

 第二は、平壌郊外のある施設の脇に設置されていた特殊な仮設構造物が解体されたという情報である。これには少し説明が要る。同施設は「3月16日工場」と呼ばれるトラック工場で、情報分析関係者の間では、ICBMと専用の移動発射台を組み合わせた後の最終点検を行う施設と考えられてきた。火星15の発射が行われた翌日の2017年11月30日には、朝鮮中央通信によって金委員長が工場を視察したときの様子が公開されている。

 注目すべきは、工場建屋の大型搬入口を囲うように設置されていた特殊な構造物である。隣接する工場建屋を大きく上回る高さのあるこの構造物は、2017年11月中旬に建設され、今年1月上旬に一度解体されたものの、4月中旬から末にかけて再び設置が確認されていた。したがって、今回の解体は2度目ということになる。

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