北朝鮮が建設と解体を繰り返す理由はよくわからないが、この構造物は北朝鮮が元々火星14を載せるために使用していた8軸・16輪の移動発射台を、より大型で重い火星15を支えられるよう車軸を付け足して9軸・18輪に改修した後、ミサイルを実際に搭載した状態で起立試験を行うための囲いであると考えられる。
北朝鮮は火星15に用いているオフロード用の9軸移動発射台を「(既存車両の改造ではなく)完全国産した」と喧伝しているが、彼らが非常に重いミサイルを支える多軸大型車両と、それを起立させられる強力な油圧システムを国産できるとの情報は確認されていない。元となっている8軸のオフロード車両は、中国から輸入した木材運搬用の大型トラック(WS51200)で、輸入データから北朝鮮国内に存在するのは6両と見られている。今年2月の軍事パレードでは、火星15を搭載した9軸の移動発射台が4両確認されていたから、今回工場脇の構造物が解体されたのは、4月中旬から8月にかけて残り2両の改修を終え、当面起立試験を行う予定がなくなったためではないかと推察される。
この見立てが正しければ、ICBMを搭載できるオフロード用の移動発射台は最大でも6両にとどまっているはずである。ただし、オフロード用の移動発射台とは別に、2月のパレードで火星14を牽引していた大型トレーラーに起立装置を取り付けることができれば、舗装道路上で運用可能な移動発射台となりうることには引き続き注意が必要だろう。
カルゴル基地で発見された
アーチ状のミサイル・シェルター
第三に注目すべきは、上記の起立試験用構造物と同じ役割を果たすと見られるミサイル・シェルターが、実戦用のミサイル配備拠点で発見されたことである。そのシェルターは北朝鮮南西部・黄海北道のカルゴルと呼ばれる基地にある。この基地は1990年代に機械化歩兵大隊用の拠点として建設され、のちに短距離弾道ミサイル用の運用基地に改修されたと見られているが、2017年9月の衛星画像にはこれまで確認されていなかった高さ13〜14mほどのアーチ状の天井空間を持つ建屋が増築されているのが確認できる(写真内真ん中(赤いポイントの下)の建物、および3D再現モデル)。この空間を使えば、スカッドER程度の大きさのミサイルを内部で起立させることが可能だ。
北朝鮮が屋内で移動式弾道ミサイルの起立が行える施設を設けているのは、固体燃料ミサイルの開発と並行して、液体燃料ミサイルの即応性を向上させる運用方法を模索しているためと推察される。通常、液体燃料ミサイルは安全性の観点から、屋外でミサイルを起立させたのちに燃料の注入を行うため、その間の攻撃に脆弱である。そこで北朝鮮は、山岳部に水平に掘られたトンネル内や秘匿シェルターのような場所で移動発射台にミサイルを寝かせたまま燃料を注入し、屋外に出したあとにそれを起立させることで、発射までの時間を短縮するための点検を行っていると考えられる。これに関連する動きとして、2017年4月16日に行った火星12の2回目の発射実験で、ミサイルに燃料を注入したまま水平状態から起立させようとした際にミサイルが倒れて発射に失敗したとの情報もある。
カルゴル基地で発見されたアーチ状のミサイル・シェルターは、これまで北朝鮮国内のミサイル配備拠点では確認されていない。しかし、北朝鮮が他の場所にも同じ役割を果たす大型の秘匿シェルターを建造しているとすれば、それらの発見と対処はより困難になるのは間違いない。
なお、ロシアは冷戦期からこれに類似した移動式ミサイル・シェルターを開発・配備している。ロシアのシェルターはアーチ状の起立スペースが設けられていない代わりに、天井部分が左右に展開して、そのままミサイルを発射可能な構造となっている。カルゴル基地の構造物には天井の展開機構は見当たらず、またエンジンを発射台上で直接点火するホットローンチ方式の火星シリーズなどをそのまま発射すれば、噴射炎によってシェルターが損壊する可能性もある。しかし、北朝鮮は固体燃料を使用し、高圧ガスを使ってキャニスターから打ち出した後にエンジンを点火させるコールドローンチ技術を実用化した、北極星シリーズの開発に既に成功している。仮に、北極星2を展開式の秘匿シェルターに配備することができれば、その発射を事前に探知することは極めて困難である。