2年前の遺恨
それが一変して今回のキャバノー判事承認審議のように、民主、共和双方が当初から対立色を露骨に前面に押し出す醜態を演じる結果となったのは、元をたどると、2年前の議会で共和党がとった理不尽な審議態度に端を発している。
オバマ民主党政権当時の2016年3月、最高裁判事に指名されたメリック・ガーランド連邦巡回裁判所首席判事の承認審議をめぐり、上院多数派となった共和党が保守派の突き上げを受けて反対態度を表明、議事進行を遅滞させたまま最終評決を実施せず、結局、指名以来293日間もたなざらしにしたまま、第114議会の会期閉幕となる翌2017年1月3日をもって“廃案”にしてしまうという史上前例のない暴挙に出た。
そして同年1月20日、オバマ氏の後にトランプ氏が大統領に就任すると、リベラル派と目されたガーランド氏より保守寄りのニール・ゴーサッチ判事を差し替えで指名、賛成54、反対45で承認されたことから、民主党はほぞをかむ結果となった。
その前例があっただけに、先月のキャバノー判事上院承認審議をめぐっては当然のことながら、両党が当初から真っ向から対立する展開となり、審議終盤には、民主党側からキャバノー氏に関する過去の性的暴行疑惑が提起されるなど、大混乱の末に、賛否の差がわずか2票という過去にない僅差で承認された。
このように、共和党が最高裁判事の人事をめぐり強硬姿勢を取り始めた背景には、
2014年以来、上下両院で多数を制した後、2016年大統領選の結果、ホワイトハウスも民主党から奪還した勢いを駆って、最後に最高裁までも共和党カラーに染めようという狙いがあった。その点では、今回キャバノー氏の最高裁判事就任により、判事9人のうち5人が保守派、リベラル派4人という明確な色分けとなったことで、共和党保守派の“積年の野望”はある意味達成されたと言えないこともない。
しかも、いったん就任した最高裁判事は終身の身分が保証されていることから、今後当分は、国民の関心事である人工中絶、人種差別是正措置、銃砲所持、公立学校における宗教行事、貧困層救済措置などの身近な社会問題について、かりに連邦地裁、巡回裁段階でリベラルな裁定が下ったとしても、最終的には最高裁で保守派に有利な結果を引き出すための安定路線が確保できたことになり、共和党にとってその意義は極めて大きい。
しかしその一方で、すでにトランプ・ホワイトハウスの“御用機関”になり下がったとも揶揄される連邦議会に続き、最高裁までが政治化することで、アメリカ民主主義の根幹をなす「三権分立」の原則が結果的に形骸化し、国民の総意がないがしろにされる懸念も指摘され始めている。(本欄8月13日付「いま、アメリカ民主主義が危ない!」参照)
世論調査機関ギャラップが10年ごとに実施してきた政府組織、団体、企業などに対する米国民の「信頼度調査」結果(2016年度)(オバマ政権当時)によると、ホワイトハウスは2006年時の「33%」(ブッシュ政権当時)から「36%」へとわずかに上昇したのに対し、連邦議会は「19%」から「9%」へと激減した。またこの間、最高裁判所は「40%」から「36%」へと下降しており、対議会ほどの不信感はないものの、国民の絶大な信頼からは程遠い状況になりつつあることを示している(なお、軍に対する信頼感は一貫して「73%」と、教会、学校、マスメディアなどあらゆる組織を引き離し1位を保持している)
こうした傾向の中にあるだけに、間近に迫った中間選挙で野党民主党が、果たして上下両院のいずれかでも奪回し、行政府の独走をチェックする議会本来の機能を回復できるかどうか、まさにアメリカ民主主義の真価を問われようとしている。
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