エルドアンの深謀遠慮
エルドアン大統領は「ありのままの真実を明らかにする」と述べ、サウジ側の発表とは大きく食い違う捜査結果になることを示唆している。エルドアン大統領は21日、トランプ大統領と電話会談し、「事件の全容解明が必要」との考えで一致。トルコと米がサウジにさらなる圧力を掛けた形となった。サウジ側は頼みのトランプ氏が立場を批判的に変えつつあることが心配だ。
エルドアン氏が23日の発表で、焦点となっているカショギ氏殺害時の録音音声を公表するのかどうかは明らかではない。だが、同氏が領事館に入って2時間以内にサウジの暗殺チームに殺害され、遺体をばらばらにされたことなど殺害時の状況を詳しく明らかにすると見られており、「偶発的に死亡した」というサウジ側の発表とは異なり、最初から殺害目的だった点もはっきりさせる見通しだ。
エルドアン大統領は当初、サウジを直接批判することは避け、カショギ氏殺害に関する情報を政府系メディアを使って小出しに流し、サウジ側に圧力を掛けてきた。大統領のこうした姿勢はサウジから“協力費”や“口止め料”を獲得するためではないかなど、さまざまな憶測を呼んだ。
というのも、トルコは対米関係の悪化で通貨リラが暴落、来年までに返済しなければならない対外債務を20兆円も抱え、経済がどん底状態。米国が11月にイランとの原油取引を禁じる制裁を発動すれば、大きな打撃を受けてしまう。こうした経済的な苦境から抜け出すため、今回の事件を利用しようとしているのではないか、というのだ。
エルドアン大統領がサウジとの対決の道を選択したのは水面下でのこうした交渉がうまくいかなかったからだと見る向きが多い。大統領が「危機からチャンスを作り出す二枚腰の政治家」であることも憶測に拍車を掛けた。トルコの発表までにはまだ時間は残っており、エルドアン氏は土壇場までサウジとの裏交渉を進める可能性が高い。
エルドアン大統領については一方で、2年前のクーデター未遂事件以降、メディアに対する弾圧を強化し、批判的なメディア150社を閉鎖、ジャーナリスト150人を拘束している面があることも忘れてはならない。カショギ氏に対するサウジの所業を大統領が非難するのはおこがましい、との批判が強いのも確かなのだ。
トルコとサウジが土壇場での交渉に失敗し、トルコの発表でサウジがさらなる窮地に追い込まれれば、「今度はムハンマド皇太子のエルドアン大統領に対する報復が始まる」(ベイルート筋)恐れも強い。トルコの捜査結果発表は今後の中東政治をも左右することになる。
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