9月26日の日米首脳会談で、日米貿易交渉の開始が、米国の中間選挙後の来年1月以降となることで、日本側は多少安堵したかもしれない。しかし、来年以降は、2020年の大統領選挙に向けて、米国政治は歩み出す。だとすると、日米貿易交渉は、日本側に十分厳しいものなるだろう。
上記のライトハイザーUSTR代表の書簡内容を読むだけでも、米国の姿勢がわかる。超党派で、議会と行政府が協力しながら、日本に貿易不均衡の是正を要求してくる。日米間の物品貿易協定(TAG)を交渉するということだが、その交渉の過程では、サービス分野も投資の拡大も議題に上ってくるだろう。そのことを、ライトハイザー書簡は示唆している。また、物品の中では、特に自動車(部品を含む)と農産物に対して、厳しい要求をしてくるだろう。
今後、日本に対して厳しい態度で臨んでくるのは、USTRばかりではない。10月17日、米国財務省は、為替報告書を公表した。その中で、財務省は、中国を為替操作国として認定することはしなかったが、中国や日本、ドイツ、インド、韓国、スイスの6か国を引き続き「監視リスト」の対象とした。実は、為替操作の是正は、ライトハイザー書簡で触れられたTPA法102条の目的の1つでもある。
また、ホワイトハウスのナヴァロ大統領補佐官(通商製造業政策局長)は、10月17日付のワシントン・タイムズ紙に、「経済安全保障は国家安全保障('Economic security is national security')」という記事を掲載し、新たな日米貿易協定は、閉鎖的な日本の農業・自動車市場を開放することになるだろう、と述べた。
9月26日の日米首脳会談から1か月も経たないうちに、米国は一方的に強硬な立場になってきたのか。疑問をもって、9月26日の「日米共同声明」を再確認してみた。同声明には、第3項目で、「日米物品貿易協定(TAG)について、また、他の重要な分野(サービスを含む)で早期に結果を生じ得るもの」も交渉対象にするとあり、第4項目では、「上記の協定の議論の完了の後に、他の貿易・投資の事項」も交渉する、とある。すなわち、日米交渉の対象は、結局、貿易・投資全般ということになる。その上で、日本は農産物に、米国は自動車に関して、第5項目で条件を付けた。「日本としては農林水産品について、過去の経済連携協定で約束した市場アクセスの譲許内容が最大限であること」と明記された。すなわち、TPPで合意した以上の譲歩はないということである。
こうして見て来ると、来年から始まる日米貿易交渉は、日本にとって相当手厳しいものになりそうである。では、日本はどうすれば良いのだろうか。ライトハイザーUSTR代表は、日本との貿易交渉について議会に通達した10月16日、同様の書簡を、英国との貿易交渉、EUとの貿易交渉についても、議会に通達している。日本は、英国やEUとの貿易協定の交渉、締結を進め、自らの立場を確固たるものにしながら、米国との交渉を進める必要があるだろう。
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