台湾との関係では、法王フランシスコ自身、今回の暫定合意について「二歩前進、一歩後退」と呼んでいることからも、短期間に台湾との外交関係を断絶し、中国との外交関係樹立にこぎつけるという構えではないようにも見える。
台湾側は、10月11-16日に陳建仁・副総統がローマを訪問し、法王と面会した。陳副総統は、敬虔なカトリック信者である。陳副総統は、法王パウロ6世の列聖式やその他のミサに列席するなどした。バチカンからの帰途、10月16日のスピーチでは、訪問は成功であったとして、次のようなことを述べた。
・法王フランシスコを台湾に招待。
・多くの高位聖職者と会い、両国間での人道・慈善支援、文化交流、宗教間対話を含む協力プロジェクトにつき議論。聖職者たちは、台湾の貢献に触れ、両国の緊密な協力を強調、人道・慈善支援におけるパートナーとしての台湾の重要性を称賛。
・バチカンで、台湾出身の司祭、修道士、修道女に会い、嬉しく思う。台湾が世界の舞台で輝けるよう、彼らが台湾を海外で支持し続けてくれることを望む。
・台湾は、平和、民主主義、人権といった普遍的な価値に基づき、宗教の自由と世界平和を推進する、バチカンと世界のすべての国々の不可欠なパートナーであり続ける。
参考:Chen Chien-jen ,‘Vice President Chen issues remarks on return from Vatican’,Office of the Republic of China(Taiwan), October 16, 2018)
陳副総統の迅速なバチカン訪問が、バチカンと中国との暫定合意を念頭に置いていることは、疑いない。しかし、バチカンは台湾とは価値観で強く結ばれているので、中国の「札束外交」のようなことは、あまり懸念する必要がないと思われる。陳副総統もスピーチで人道・慈善支援における協力について触れているが、そうした協力を強化していくことがバチカンと台湾の関係を繋ぎとめるのに効果的であろう。総統府報道官は、暫定合意について、中国の信徒が信教の自由を享受できるようになるのであれば祝福すべきである、と冷静なコメントを出している。台湾側が追い込まれているわけではないことの証左と見てよいかもしれない。なお、ローマ法王の台湾への招待については、10月18日に「台湾訪問は検討中ではない」と、バチカン広報局が発表し、台湾側に冷水を浴びせた形となった。
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