2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年11月2日

 バチカンは、欧州で台湾と国交を有する唯一の国である。当然、中国は、バチカンと台湾との国交断絶を目指していよう。

 バチカンと台湾との国交の歴史的淵源は、バチカンが国共内戦に際し、共産党政権ではなく国民党政権と国交を結んだことにある。その後、国民党政権は台湾に亡命し、外国人神父・司教は中国本土から追放、多くの中国人神父は台湾に渡った。共産党政権側は1957年、共産党の監督下にある「愛国カトリック教会」を設立した。これに対し、時の法王ピウス12 世は、同協会の下で新司教を任命した司教は破門すると宣告し、中国のカトリック教徒(推定1000万人)は、国家公認の「愛国カトリック教会」とバチカンに忠実な「地下教会」に二分されている。

 現法王フランシスコは、対中宥和的で、司教任命をめぐるバチカンと中国の対立において何らかの譲歩をするのではないかと、かねてから指摘されてきた。その暫定合意が9月22日に成立した。その詳細は公表されていないが、中国共産党として、法王を「愛国カトリック教会」のトップとして認めるかわりに「愛国カトリック教会」の数人の司教は中国側が独自に任命し、法王がそれを容認する形をとるというものであると想定される。

(oculo/MuchMania/stockdevil/iStock)

 習近平政権下では、「地下教会」への締め付けは、ウイグル族のイスラム教徒への弾圧と同様に厳しくなっている。チベットの仏教徒も信仰を守るのに苦労を強いられている。バチカンのカトリック教会内では、今回の暫定合意という譲歩は「中国に対し、悪いメッセージを与えることになる」との批判の声が上がっているとも伝えられる。中国共産党が多方面で宗教弾圧を行っている中、無神論者の共産党が任命拒否権を持つ神父を法王が承認することには、大きな衝撃を受けるのも当然であろう。ただ、おそらく今回の暫定合意では、「地下教会」の扱いについては如何なる合意も成立していないのではないかと考えられる。つまり、バチカンと中国の間の大きな溝は残ったままと見られる。


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