王家で何かが起こっている
米国がサウジ支援を続行するのかどうかは事件を指示したとの疑惑を持たれているムハンマド皇太子にとって死活問題だ。1日付のワシントン・ポスト紙は皇太子が事件の数日後、盟友であるトランプ大統領の娘婿ジャレッド・クシュナー上級顧問や、ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)に電話し、カショギ氏が危険なイスラム主義者だと主張していた、という。
皇太子はカショギ氏を「ムスリム同胞団の一員」と述べたとされる。ムスリム同胞団はエジプトを拠点とするイスラム原理主義組織。エジプトではシシ現大統領にクーデターで打倒される前、同胞団出身のモルシ氏が1年だけ政権に就いた。しかし、サウジは同胞団をテロ組織と非難し、王国にとって脅威と見なしてきた。皇太子はカショギ氏をテロリストだと米側に印象付けて、事件に対する米国の支持を得ようとしたと見られている。
事件がどう決着するのかはまだ不明だが、サウジの国際的な信用が失墜し、重大な国家的危機に直面しているのは事実だ。問題は病弱といわれるサルマン国王に危機を乗り切るために的確な決断ができるかどうかだ。ムハンマド皇太子をあくまでもその地位にとどめるのか、それともいったん退かせるのか。ここで浮上しているのが有力な別の王子を枢要な地位に就け、皇太子の権力を分散しようという考えだ。
皇太子によって政敵が排除された状況の中で、皇太子と権力を共有できるような適当な人物がいるのだろうか。そうした中、ロンドンで暮らしていた国王の弟、アハメド・アブドルアジズ元内相(76)が10月30日にサウジに帰国。「サウド王家で何かが起こっている」との観測に拍車が掛かっている。
アハメド元内相は初代アブドルアジズ国王の息子。サルマン国王の弟だが、ムハンマド皇太子が権力を握ってから、拘束を恐れてロンドンで事実上の亡命生活を送ってきた。最近、国王や皇太子によるイエメン戦争の介入を批判し、注目を集めた。とりわけ反体制派は次の国王として期待している。
アハメド元内相はまた、サウド王家の最有力閨閥である「スデイリ7」の1人。「スデイリ7」は初代アブドルアジズ国王がスデイリ家出身の第3夫人に産ませた7人の息子の総称。生存しているのはサルマン国王とアハメド王子の2人だけである。
ムハンマド皇太子への批判を和らげ、国際的な信頼を回復するため、一時的に外相などに起用されるかもしれない。ただ、政治にはあまり関心を示していないとも言われる。今回の帰国がサルマン国王の求めに応じたものであれば、要職に就く可能性があるだろう。
アハメド元内相がリヤドの国際空港に到着したのは午前1時半過ぎ。未明にもかかわらず、空港には甥のムハンマド皇太子が出迎えたという。この出迎えに何か意味があるのか、サウジウオッチャーは王家に近く変化があると見ている。
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