2022年11月29日(火)

野嶋剛が読み解くアジア最新事情

2018年11月7日

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野嶋 剛 (のじま・つよし)

ジャーナリスト

1968年生れ。ジャーナリスト。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、シンガポール支局長や台北支局長として中国や台湾、アジア関連の報道に携わる。2016年4月からフリーに。著書に『イラク戦争従軍記』(朝日新聞社)、『ふたつの故宮博物院』(新潮選書)、『謎の名画・清明上河図』(勉誠出版)、『銀輪の巨人ジャイアント』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)。訳書に『チャイニーズ・ライフ』(明石書店)。最新刊は『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』(小学館)。公式HPは https://nojimatsuyoshi.com

高雄市以外でも苦戦している民進党

 直轄市では台中市でも民進党の現職・林佳龍市長の情勢も芳しくない。こちらも当初は優勢と見られていたが、国民党候補に互角の戦いを許している。民進党の選挙担当幹部は「台中が勝負どころのはずだったが、高雄にも党の応援を割かざるを得ない。台中と高雄で共倒れになってしまうのが怖い。現状では台中、高雄ともわずかに優勢と見ているが、開票までどうなるかわからない」と苦戦を認めている。

 台北市では、現職市長の無所属、柯文哲氏が圧勝しそうな勢いだ。もともと前回選挙では、民進党が柯文哲氏を推して勝利した形だったが、今回は決裂。独自候補の姚文智氏を立てたが、支持が伸びず、国民党候補にも及ばない見通しだ。選挙後、姚文智氏の擁立を決めた党本部の判断ミスが問題視されるだろう。

 人口で台湾最大の新北市で、民進党はかつて行政院長も務めた長老の蘇貞昌氏を候補に立てた。予想より善戦しているとの声もあるが、国民党候補の侯友宜氏に及ばないだろう。残りの台南市、桃園市は民進党候補が安定した戦いを進めている。

 直轄市を含めた台湾全体で22ある県市長のポストのなかで、現在、民進党は13、国民党は6、無党派は3となっているが、今回の選挙で民進党のポストが10以下に落ち込めば、国民党に並ばれかねない。

民進党が苦戦しているワケ

 2014年の前統一地方選は、ひまわり運動の余勢をかって民進党は絶好調のタイミングだった。今回は多少のポスト減は想定内と最初は余裕を見せていた蔡英文政権だが、台中だけでなく、高雄まで失えば、蔡英文総統の責任問題が浮上するのは目に見えている。その場合は、兼務する党主席の辞任もあり得るだろう。

 問題は蔡英文総統の人気低迷が、選挙全体に暗い影を落としているところにある。台湾経済のマクロのパフォーマンスはそれほど悪くはなく、年金や労働法の改革などの重要課題にも懸命に取り組んでいるが、どの勢力からも嫌われないように心がける政治スタイルが逆に「煮え切らない」と見られており、支持層の分断を招いている。

 李登輝、陳水扁など過去の総統経験者や独立派も蔡英文批判に回っており、ひまわり運動で蔡英文総統を熱狂的に支持した若者たちの間にも、LGBT問題や脱原発問題などで彼らが期待する改革に及び腰だとの失望感が漂っている。

 対中関係でも「現状維持」の穏和路線を掲げながら、中国の習近平政権との対話は一向に進まず、中台の対話チャンネルは凍結されたまま。ビジネスや観光にも影響が生じており、そのことを取り戻すほかの目立った業績も挙げられていないこともあって、格差拡大や就職難などで鬱積した不満が現政権に向けられている形である。

 残り2週間あまりとなった選挙戦をどこまで盛り返せるか。高雄や台中で踏ん張って勝利できれば、この地方選挙での小さな敗北がかえってガス抜きになって再び勢いを取り戻すかもしれない。蔡英文総統は先週末も高雄に入るなど選挙情勢の挽回に必死の構えを見せている。

  
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