サウジ人ジャーナリストのジャマル・カショギ氏がトルコのサウジ総領事館で殺害された事件は、中東情勢に影響を与える要素となっている。
本件では、トルコのエルドアン大統領が積極的に動いている。エルドアンは10月23日、トルコ議会で事件について演説をした。その中でエルドアンは、カショギ氏が事故で死亡したとするサウジのそれまでの説明を否定し、カショギ氏が計画的に残忍な手法で殺害されたことを示す強固な証拠がある、と述べた。また、サウジの情報局員らがカショギ氏殺害に関与したとのサウジの説明には納得できない、責任者をイスタンブールで裁くべきである、と主張した。しかし、「真実を明らかにする」との約束にもかかわらず、演説では、トルコが持っているとしてきた証拠を開示するようなことはなかった。関与が疑われるサウジのムハンマド皇太子(MBS)を名指しすることもなく、サルマン国王を信頼している、と述べた。
さらに、エルドアンは、11月2日付でワシントン・ポスト紙に‘Saudi Arabia still has many questions to answer about Jamal Khashoggi’s killing’と題する一文を寄稿し、「我々は、カショギ氏殺害の命令がサウジ政府の最高レベルから出されたことを知っている」「サルマン国王がカショギ氏殺害を指示したとは考えていない。それゆえ本件がサウジの公式の政策を反映したと信じる理由はない」「事件の背後にいる黒幕を暴かなければならない」などと述べている。
一般論として、国際政治は力関係など地政学的な要素でそのおおよその在り方が決まり、これが国際政治の安定にもつながる。カショギ事件のような事件で、諸考慮の上にできた関係が壊れることはあまり望ましくない。しかし、演説、寄稿文のいずれにおいても、エルドアンは、曖昧さを残し、本件を政治的に利用し、サウジおよび米国から必要な譲歩を得ようとしているように見える。これは、複雑な力関係の上に成り立っている中東にあって、リスクの高い行動であるように思われる。