Washington Files

2018年11月19日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

「クリントン政権時の教訓」

 このように民主党幹部が今の時点で、トランプ大統領に対する深追いに二の足を踏んでいる背景には、「クリントン政権時の教訓」があるからだ。

 1998年12月、当時下院で多数を制していた共和党は、2期目の任期途中だったクリントン大統領の女性スキャンダル問題を執拗に追及、結果的に下院本会議での過半数支持により米国政治史上2人目となる弾劾に追い込んだ。

 これに続く上院での弾劾裁判では、民主党議員と一部共和党議員の反対もあり、全議員3分の2の支持を必要とする「罷免」にまでは至らなかった。

 しかし、この間、国民の間では大統領の個人的なスキャンダルを理由とした弾劾そのものの妥当性に対する異論も渦巻き、国論を大きく2分するほどの騒ぎとなった。

 そして2000年大統領選とともに行われた議会選挙では、それまで共和党が多数を制していた上院で4議席減となったのに対し、民主党が4議席増と躍進したほか、下院でも共和党が議席を減らす結果となったが、その要因のひとつとして挙げられたのが、当時の党派色をむき出しにした共和党による大統領に対する深追いだったとされている。

 この点、今回のロシア疑惑追及は、クリントン・スキャンダルと比べ深さと広がりそしてその内容においてはるかに深刻だ。

 しかし、かりに民主党が多数となる下院において過半数支持で弾劾決議(起訴に相当)に至ったとしても、大統領罷免に必要な3分の2の支持を必要とする上院では依然として共和党が多数を制しているため、クリントン大統領弾劾当時と同様の結果に至ることは目に見えている。

 ペロシ女史があえて「共和党の支持」の必要性に言及したのも、こうした点を念頭に置いているからに他ならない。

 さらに民主党幹部は、今年の中間選挙での下院勝利に加え、2020年大統領選挙と議会選挙に向けて、このままの勢いを保ちつつ、政権奪回と上院での多数支配の機が熟すのを待つ構えだ。

 そのためにとくに民主党の「2020年選挙対策本部」が重視するのは、民主党傾斜を顕著にしつつある女性、ヒスパニック、黒人などのマイノリティ、大学卒の若年層、都市近郊居住者などの支持層に加え、ラストベルト(さびついた工業地帯)や農鉱業地帯の労働者の多い中西部諸州の支持基盤掘り起こしだ。

 この点については、すでに本欄でも解説した通り、今回中間選挙結果で注目されたのが、2016年大統領選でトランプ当選を決定づけた中西部のミシガン、ペンシルバニア、ウイスコンシンの3州における上院選および州知事選でいずれも民主党候補が共和党候補相手に勝利を収めたことだった。もともとこれらの地域は伝統的に、工場労働者を束ねる民主党系で全米最大の労組「AFL-CIO」の支配下にあったが、2年前の大統領選ではヒラリー・クリントン民主党候補に幻滅した組織票がトランプ支持に鞍替えしたといわれていた(11月12日付け「『トランプ主義』の限界が露呈した米中間選挙」参照)。

 その白人労働者層が今回の中間選挙では、トランプ政権が鳴り物入りで実施した大規模減税の恩恵にあずかるどころか、「米中関税戦争」のあおりを受けた物価高に苦しめられ、一時的に民主党に“出戻り”したとの見方もある。

 しかし、既成概念をつぎつぎに打ち破り誰にもわかりやすい言葉で聴衆に語りかけるトランプ氏の独特の政治スタイルに対する支持はいぜん根強いとみられるだけに、ロシア疑惑やセックス・スキャンダルをめぐる大統領に対する追及が度を過ぎた場合、2年後の選挙でこれらの票が「トランプ再選」支持に再び戻ることにもなりかねない。

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