田部康喜のTV読本

2018年11月22日

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田部康喜 (たべ・こうき)

コラムニスト

福島県会津若松市生まれ。幼少時代から大学卒業まで、仙台市で暮らす。朝日新聞記者、朝日ジャーナル編集部員、論説委員などを経て、ソフトバンク広報室長に就任。社内ベンチャーで電子配信会社を設立、取締役会長。2012年春に独立、シンクタンク代表。2015年10月から東日本国際大学客員教授として地域振興政策を研究、同大・地域振興戦略研究所副所長を兼務。

俳優たちのセリフで古典が理解できる、巧みな脚本

 第6回「心中」(11月16日)に至って、菊比古(岡田)は四国の助六(山崎)の元を訪れる。助六を落語の高座に戻そうとするためである。

 菊比古は助六に語りかける。「お前さんの落語が必要なんだ。お前さんを取り戻したい。私の落語のために。お客のためじゃあない、私のためにやれってんだ」。

 菊比古は、助六の破天荒な芸にかなわないと思ってきた。そして、彼の芸をみながら自分の芸を磨いてきたのである。

 旅館の亭主から、菊比古は大広間で落語会を開くことを勧められる。そして、助六も噺をするようにいうのだった。

 助六  「俺は、落語が嫌いなんだ」

 菊比古 「お前さんは落語をするために生まれてきたんだ」

 実現したふたりの落語会で、菊比古のあとに助六が演じたのは古典落語の「芝浜」である。魚河岸で魚を仕入れて、得意先に売った歩く魚屋が、酒浸りの暮らしから女房にせかされて久しぶりに仕事にでる。しかし、女房が旦那を起こす時刻を早めに間違ったために、海辺で暇をつぶしていると、波に流されてきた大金が入った財布を拾う。旦那は隣近所を集めて祝いの酒盛りをする。酔いからさめた旦那に女房は、すべてが夢だったと諭し、旦那は心を入れ替えて働きだす。噺は大晦日の夜に、女が旦那にこれまで隠していたことを詫びるくだりから落ちになる。

 旦那 「おらがしょうがないから苦労ばっかりかけた。勘弁してくれ」

 女房 「こんなときはお酒を飲まなきゃね」

 旦那 「本当にいいんだな。……いや、やめよう」

 女房 「飲まないのかい」

 旦那 「また夢になるといけねえ」

 昭和の名人・五代目古今亭志ん生が得意とした演目であり、立川流家元の立川談志が、最後の落ちに至る女房のセリフを新たに創作して、年末の独演会のシメとしていた古典である。

 会場の大広間の後ろに、みよ吉の姿があった。助六の「芝浜」の旦那のセリフは、みよ吉に向けられた。

 高座を終えた菊比古をみよ吉は、泊り客をよそおって別室に女中を通じて呼び寄せる。

 みよ吉  「やっときてくれたのか。あんまり遅いんで待ちくたびれちゃった」

 菊比古  「迎えにきたんだ。みんなで暮らそう」

 みよ吉  「菊さんとふたりならいい……あの人(助六)とわたしは似てるの。あんたのために人生が狂った者同士」

 酔いからさめた助六が部屋に飛び込んでくる。みよ吉に向かって「きょうの『芝浜』は、おまえがいなかったらできなかった。あれで十分だ。ありがとう」と。

 窓辺にすわっていたみよ吉が欄干が崩れて、高い部屋から落ちそうになる。抱き止めた助六もいっしょに落ちる。菊比古が助六の右手をつかむ。助六は「離すんだ!」と叫ぶ。そして、自ら菊比古の手をふりほどく。助六とみよ吉は死ぬ。

 月日が経って、菊比古は八代目八雲を襲名する。

 <落語を葬り去ろう。八雲の名とともに心中しよう。心底そう思いました>

 ドラマのなかで演じられる古典の数々は、落語ファンでなくとも俳優たちのセリフで理解できる。脚本の羽原大介の巧みさである。

 わたしは、国立演芸場の月例会にたまに足を延ばし、ホール落語は、立川流なかでも談春の「追っかけ」である。TBS日曜劇場「下町ロケット」に主人公の阿部寛を支える経理担当者で、いまは父親の農業を継いでいる殿村直弘役で顔を出しているのが、うれしい。
 

  
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