2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年12月7日

 CIAは、電話傍受、総領事館の館内での音声記録など多くの証拠に基づく判断をしており、十分な根拠に基づいて結論を出したと思われる。しかし、トランプはCIAの結論を受け入れず、ムハンマド皇太子を擁護している。上記声明でトランプ自身も認めている通り、米議会からも反発する動きが上がっている。米下院情報委員会は、殺害事件について情報当局が把握していることや、トランプの対応について、調査に乗り出す方針である、とも報じられている。議会と政府が厳しく対立するようなことになれば、この問題への米国の対処能力を弱め得る。

 今回のトランプの対応が、中東情勢に与える影響としては、第一にトルコの発言力をさらに強めることになろう。エルドアン大統領は、当初より本件を戦略的に利用しようとしてきたように見える。トルコ当局は事件の決定的な証拠を持っているはずであるが、小出しにしかしていない。今後、米国には、クーデター未遂事件の首謀者とされるギュレン師の引き渡しや、シリアにおけるクルド人勢力(YPG)への支援を止めることを要求することが考えられる。

 サウジに対してトルコは、YPGへの支援停止の他、カタール封鎖の解除などを求めることが考えられる。また、米英は、サウジが主導しているイエメン戦争の停戦に向けて圧力を強めているが、トランプが「貸し」を作ったことで、サウジが応じる可能性が多少なりとも高まったかもしれない。カタール危機の解消、イエメン戦争の停戦に繋がれば、思わぬプラスと言えよう。

 サウジの政局について言えば、今のところ流動化の兆候が見えているわけではないが、これまでのムハンマド皇太子の強引さに王族の中でも反発があることは想像に難くない。サウジの改革は、頓挫しないとしても、スピードが落ちることは確実であろう。
 

  
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