「従来の火災体験では、安全面や技術面から白い煙しか焚(た)けないが、本当の火災の煙は黒い。ならば、VRで再現してみようとなった」と新規事業推進室の石川大樹グループ長は経緯を語った。「避難体験VR」では、実際にしゃがんでコントローラーを口元に当て(VR空間内ではハンカチとして表示)、緑色の避難口誘導灯などに従いながら、視界が黒い煙で染まっていく中、避難できるかを体験できる。
また「逃げる側」ではなく「逃がす側」として、客の避難誘導や消火手順といった自社マニュアルをVR化し、社員向けの教育に使っている例もあるという。
そもそもこの「避難体験VR」が開発されたのは、「自治体から『避難する側の意識啓発をできないか』という要望があったのがきっかけ」(石川グループ長)だった。防災避難訓練が形骸化する中で、いかに興味を持ってもらえるかが重要だったのだ。
野村不動産は17年6月、新宿野村ビルで「避難体験VR」を使った避難訓練を行い、高層ビルにおける入居テナント向けの防災イベントでVRを活用した日本初の事例となった。同社の防災担当者は「これまでのマンネリ化していた防災訓練を考えれば、まず『面白かった』と思ってもらえたことが大きな一歩」と語った。
クルマをVR空間内でデザインする
また、訓練以外の重要ツールとして、VR活用の道も拓(ひら)けてきている。その最たるものが「VR会議」だ。
とはいえ、通常の会議やテレビ会議に対し、VR会議がどのようなアドバンテージを確立できるのだろうか。家にいながら参加可能、外見を気にしなくていい、空間内に文字を書ける、外国語の自動翻訳が可能など、数社がその機能と可能性を模索しているが、VRである必然性は見い出しにくいのが現状だ。
そんな中でVR会議システムにデザイニングの機能を加えたのが、米エヌビディアの「Holodeck」だ。18年6月に試用版「アーリーアクセス2」をリリースした。自動車業界や建築業界をターゲット層とし、海外では独アウディやNASAなど、国内ではトヨタ自動車や日産自動車などが試験的に導入している。
Holodeckの最大の特徴は、実際にメーカーで使われている3Dデータを取り込み、VR空間内に写実的な3Dモデルとして再現できる点だ。加えて色や外装の変更、部品の取り外し、解体ができ、車の中に乗り込んでハンドルを握ったり、建築物の中に入って歩き回ったり、光源の位置を変えたりと自由度が高い。
VR空間の中で実物に近い3Dモデルを前に議論できる、という形で、これまで現実にモックアップを作って確認せざるを得なかった部分の多くを代替できる。