2022年8月15日(月)

Washington Files

2019年1月1日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。著書に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

<歳入委員会>

 しかし、トランプ氏にとって最も気がかりなのはおそらく、歳入委員会の動きだろう。というのは、リチャード・ニール次期委員長がすでに、さまざまな憶測が広がっているトランプ氏の過去の納税実態について、調査に意欲を見せているからだ。

 トランプ氏の税金処理問題については、これまでマスコミで繰り返し報じられてきたとおり、過去の歴代大統領が就任の際に、国民の前に襟を正すために自らの確定申告内容を公表してきたが、トランプ氏だけが例外的に公表を頑固拒否し続けてきた。このためニール議員は報道陣に対し「委員会として大統領に任意に確定申告内容を公表するよう求める。それでも応じない場合は、法的手続きを踏んで財務省が人数を限定した関係議員だけに内容の説明書類を提出するよう要請する」と語った。

 また、財務長官がこれを拒否した場合は、最終的には法廷闘争に持ち込まれるとの見通しまで明らかにしている。

 さらに同議員はワシントン・ポスト紙記者に対し、「委員会としてはこれと並行して、税金問題を取り扱う議会当該委員会が大統領はじめあらゆる国民からの確定申告内容の提出を求めることを可能とする『1924年法』の運用もありうる」として、同法を盾に関係書類を入手した場合、議会の単純過半数の承認をへて国民に開示することを約束した。

 税金の適正申告は、国民の琴線に直接触れるきわめて重大な関心事であるだけに、もし、証拠書類の公表によって大統領の不正が明らかになった場合、与党共和党としても大統領弁護をしづらくなり、弾劾審議の途中で大統領自ら辞任を表明しないかぎり、結果的に弾劾決議を経て最終的には、身分はく奪という最悪事態も皆無とは言い切れない。
 
 一方、これら議会のあわただしい動きとは別に、モラー特別官によるロシア疑惑捜査もいよいよヤマ場を迎えようとしている。

 これまでにロシアによる2016年米大統領選挙介入問題に関連して、すでに起訴されたか、または自ら容疑を認め、捜査協力に応じているトランプ陣営の事件関係者としては、ポール・マナフォート元2016年米大統領選共和党選対本部長、マイケル・フリン元大統領補佐官、昨年まで大統領の顧問弁護士を務めたマイケル・コーエン氏、トランプ選対本部外交顧問を務めたジョージ・パパドポロス氏、同選対本部上級スタッフでマノフォート氏のビジネス・パートナーだったリック・ゲイツ氏らがいるほか、事件に深く関与したとみられるロシア側の重要人物としてすでに13人が起訴されている。

 このほか、大統領選挙期間中に民主党幹部らのメール交信内容をハッキングした容疑で、ロシア軍情報機関工作員12人がFBIに告発された。

 米紙報道によると、モラー特別検察官はこれら重要人物らの証言や関連資料の押収などを通じ、トランプ大統領の事件への関与立証に向け着々と“外堀”を埋めつつあるとみられ、遅くとも今春ごろまでには何らかの結論を出すとの見方が有力だ。

 このようにトランプ氏を取り巻く環境はますます厳しさを増す一方だが、大統領にとって悩ましいのは、ホワイトハウスで今後、本格的に問題処理に当たらせるだけの信頼のおける有能スタッフが決定的に不足している点だ。

 とくに懸念されるのが、12月末で退任したジョン・ケリー首席補佐官なきあと、議会対策などの経験も少ないスタッフ間での指導権争いが再燃しかねないことだ。

 人数的にも、能力的にも、議会各員会から予想される証拠書類提出および証人出頭要請ラッシュに十分に対応しきれず、ホワイトハウス内部に混乱が広がることにもなりかねない。

 こうした状況から米マスコミでは、トランプ大統領が置かれている最近の心理状態について、「バンカー・メンタリティ」との表現も使われ始めている。集中砲火にさらされる戦場の塹壕に身を潜め、ひたすら危険が去るのを待つ、そんな心境を指している。

 いずれにしても2019年は大統領にとって、かつて経験もしなかった深刻な「試練の年」となりそうだ。

  
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