就任3年目を迎えたトランプ政権の前には、年明け早々から次々に難題が待ち受けている。しかし、側近たちの人事含めこれらに対処するだけの十分な態勢がホワイトハウスで整わず、政権内には沈鬱なムードも漂い始めている。
「自分はあわれにも、ホワイトハウスの中でたった一人。なんとしても必要な国境警備について取引するため(下院で多数派となる)民主党のカムバックを待ちわびている……」
トランプ大統領はクリスマス・イブの24日、自らのツイッターの中で、最優先課題としてきたメキシコ国境沿いの「壁」建設予算確保のめどが立たなないことにいらだち、めずらしくこんな弱音を吐いて米マスコミで大きな話題となった。就任以来、さまざまな懸案が出てくるたびに側近たちの助言に耳を貸すことなく「最終的に問題解決できるのは自分だけ」と豪語してみせた頃とは、様変わりだ。
本来なら、クリスマス前から新年始めにかけて2週間程度の休みに入り、フロリダの自分の別荘地「マール・ア・ラゴ」に滞在、ゴルフ三昧でのんびり過ごす予定だった。しかし、連邦議会が準備した暫定予算案の中に十分な「壁」建設予算が含まれておらず、大統領が同予算案の署名を拒否したことから、公務員、一般職員給与も凍結となり、政府一時閉鎖状態に追い込まれた。
自らの決断で混乱を招いた以上、さすがに政府閉鎖状態のまま、一人だけワシントンを抜け出し休暇に入るわけにもいかず、やむなくホワイトハウスに閉じこもり、「憂鬱なクリスマス」(ワシントン・ポスト紙)を過ごすことになった。この間、自分との見解の相違を理由に辞任表明したマチス国防長官や「壁」審議で立ちはだかる民主党議員たちに対する恨みつらみ、お決まりのマスコミ批判などを含め、クリスマス・イブの日だけでトランプ氏が発したツイッター回数は11回、その前後の数日間を含めると35回にも及んだ。
「自分はたった一人……」の嘆き節もそのうちのひとつだったが、大統領としてのこうした異常ともいえる行動について、過去3人の共和党大統領に側近として仕えたベテラン・コンサルタントのピーター・ウェーナー氏は、ポスト紙とのインタビューでこう評している。
「これはまさに、行く手に迷い傷ついた魂の情景だ。吹き荒れる風に向かって雄たけびを上げる孤立・孤独の大統領の姿であり、そこには悲しみと痛恨の空気さえ感じられる。嘆かわしいことだ」
だが実は、新年明けからの大統領の行く手には、「壁」建設問題どころではない、個人的にも深刻な懸案が待ち受けている。すなわち、新たに民主党が多数支配する下院各委員会での様々な「トランプ疑惑」をめぐる本格究明の動きだ。昨年までは、上院同様、下院も与党共和党が多数を占めていたため、マスコミでの度重なる疑惑報道にもかかわらず、これらの問題についてはアンタッチャブルだった。しかし、先の中間選挙で民主党が下院奪回以来、証拠物件の提出命令、証人喚問など強制権をともなう徹底調査が可能になったことを受け、トランプ・ホワイトハウスは警戒を強めている。
具体的には、1月3日、連邦議会招集を受けて下院各委員会で、以下のような調査がスタートする:
<情報特別委員会>
委員長に就任が予定されているアダム・シフ議員(元連邦検察官)は年末、有力雑誌
「ニューヨーカー」とのインタビューで、トランプ氏がかつて「自分の個人的金融取引を公的機関が捜査することは“レッド・ゾーン”(危険立ち入り区域)を超えることになり許されない」と述べてきた点について、「われわれは“レッド・ゾーン”を超えるどころか、取り払って徹底的に調査する」と意欲を見せた。
とくに重視している調査項目として(1)モスクワの「トランプ・タワー」建設計画をめぐるロシア政府関係者とトランプ陣営側とのやりとり(2)2016年米大統領選挙期間中にトランプ陣営に注ぎ込まれたとみられるロシアからの大規模な資金の流れ(3)1990年代からトランプ氏の活動拠点となった「トランプ・オーガニゼーション」に対するドイツ銀行の金融面での援助と資金洗浄の実態(4)大統領選期間中そして大統領就任後も含めて、みずからのビジネス取引のために対ロシア外交政策に手心を加えた可能性(5)自らも豪語してきたような、サウジアラビアからトランプ不動産事業への巨額融資の実態(6)娘婿のジャレッド・クシュナー氏がトランプ氏当選後の2016年12月、ロシア国営銀行CEOと密談した背景とその後の接触(7)プーチン露大統領の直接指示の下、トランプ候補を当選させる目的で露情報機関が2016年米大統領選に介入した工作の全容、などを具体例として挙げている。
シフ議員はさらに、こうした点をめぐる徹底調査のために、昨年までわずか5人しかいなかった自分の専門調査スタッフを委員長就任をきっかけに5倍の25人に増やす計画であり、その人選を急いでいるが、外部の若手の有能弁護士たちから希望者が殺到しているという。