米中貿易戦争をどう見るか
上記経緯から見ると米中貿易戦争の背景は自ずと明らかであると思われるが、自分なりに整理すると以下の通り。
中国のここまでの経済的な成功の要因
- 冷戦の構造的メリット(主に米日の経済的支援と市場開放)を1978年より40年享受し、自国の産業基盤の構築と資本の蓄積を果たし、世界第2位のGDPを獲得した。
- 経済的な実力をつけるまでは韜光養晦として、米国の警戒感を過度に刺激しなかった。
- 2005年からの米国の人民元切り上げの要求に対して今日まで17%の切り上げにとどめていること。
米国の誤算
- 想定外の中国の持続的成長と技術力の増長。
- WTO加盟後も中国市場の開放は限定的に止まっており、対中貿易赤字が増える一方であること。人民元切り上げ要求をしているものの、糠に釘で長期安定を許している。
- 同時多発テロ後、中東、アフガニスタンなどに気をとられているうちに安全保障面で中国の拡張を許し、自国の覇権の脅威となってしまった。
- 豊かになれば共産党一党独裁は維持できないと見ていたが、そうはならなかった。
中国の誤算
- リーマンショック後の中国の国際的な影響力向上により、韜光養晦の戦略を変化させることができるかもしれないと考えてしまった。
- その後の安保面での攻勢に対して、ここまで米国の警戒感を刺激するとは思わなかった。
- 輸出振興よりもより内需拡大に注力することによっても中国の収益モデルを維持拡大できると考えてしまった。
- 中国製造2025は、安価な労働力だけに頼れなくなった中国が、自国の産業構造を高度化するためのある意味自然な成り行きであったが、それが米国の覇権に挑戦するものと警戒されるものとは想像もしなかった。
- トランプはビジネスマンなので、米国に経済的なメリットすればディールしやすいと思っていた。まさか、反トランプ陣営とも対中政策について足踏みを揃えるとは思わなかった。
- 米中貿易摩擦は、米国に文句を言われたら、その都度爆買いをすればなんとかなると思っていた。中国の制度にも及ぶ構造的な問題まで踏み込まれるとは思わなかった。
- 中国は、プラザ合意後の日本対応をよく研究しているようであるが、日本のそれと本質的に違うところは、経済面だけではなく、中国の場合は、安保面でも米国との対立構造を示していまい、問題をより複雑にしてしまったこと。
米中貿易摩擦の本質と解決の条件
- 両国の誤算が生んだ複雑な絡み合いと言えるのでは。
- 貿易摩擦の交渉は、圧倒的に買い手である米国が有利なポジションにある。
- 中国は、米国の市場を失いたくないのであれば、爆買いするだけでなく、米国の警戒感を解く政治的な努力が必要。輸出産業の牽引なしに中国経済の成長を維持できるとは考えにくい。
- ただ、中国が米国の警戒感を解くには、中国の経済権益の再調整と安保面における妥協が必要で、外交よりも国内問題の様相が強い。中国製造2025、一帯一路、そして安保面で攻勢を強める背景は、中国国内の人民の現政権に対する支持獲得の一環であり中国共産党の正統性を補完するためという見方もある。
- 米国にとっては、中国を追い詰めることのメリットとデメリットを比較しながら今後の落とし所を探ることになるはず。一部メディアでは米国は中国を崩壊まで追い詰めるであろうという極端な分析も見られるが、そこまでやって米国が得るメリットは何なのであろうか。
- 鄧小平が1978年に始め40年間続いた改革開放政策は、鄧小平をはじめとした先人たちの遺産ともいえ、ここにきて大きなポジショニング調整の時期を迎えている。それは、中国にとって新しい収益モデル、ゲームのルールを構築することに他ならない。ここをうまく乗り越えて、新しいルールを構築することに成功したら、習近平は真に鄧小平に比肩する中国のリーダと言えるのでは。今回の米中貿易戦争は、中国にとってそのくらいエポックメイキングな出来事であるといえよう。