アルバニアに出稼ぎに来る外国人とは?
3月6日。デュラスの南方約50キロの国道沿いの安ホテルに投宿。レストランでは多数の黒人系外国人が賑やかに夕食をしていた。聞くと一行はアルバニアのプロサッカーチームのメンバーでありブラジル人、ナイジェリア人が7人、中国人が1人であった。
アルバニアにはスーパー・リーガ(Superliga)というプロサッカーリーグがあり10のチームで構成されているという。ちなみにアルバニアはFIFAランキングでは60位前後でありワールドカップ本選出場経験はない。
参考までに2018年12月時点のFIFAランキングはアルバニア60位、日本50位、中国76位である。
ホテルの近くにチームの練習場があり、アルバニア人選手はアパートに住んでいるらしい。外人選手はチームが用意した安ホテルで起居しているということらしい。付近に何もない田舎町で合宿しているので、憂さ晴らしにビールや焼酎を飲んで騒いでいた。
中国人選手の楊君のポジションはミッドフィルダー。楊君は中国のトップリーグではポジションが得られず、チャンスを求めて一年前にアルバニアに来た。アルバニアでの報酬は中国にいた時よりも高いとのことだが、楊君は英語も片言程度なので話し相手もなく鬱屈した様子であった。
黒人選手たちの楽天的振る舞いを見ていたら、タイのサッカーリーグでプレイしていたナイジェリア人選手たちを思い出した。彼らは正規ビザを持たず、三か月ごとに隣国のラオスに出国して観光ビザを切り替えていた。
ムッソリーニはアルバニアの産業インフラを整備した功労者?
3月8日。デュラスの博物館を参観。古代ギリシア・ローマ時代の彫刻、焼き物等の出土品の展示が充実していた。他に入場者はおらず、館内には39歳の学芸員らしき人物が一人だけだった。彼は暇を持て余していたようで饒舌に話しかけてきた。
彼はアルバニアの大学で歴史を専攻。さらに米国に留学して米国近現代史を研究。オジサンが日本人と分かると一気に第二次世界大戦批判を展開。欧米で主流の歴史観である“米英主導の民主主義と、日独伊のファシズムの対決”というイデオロギー的分析は戦勝国が一方的に“でっち上げた虚構”(forged fiction)と断言。カール・マルクスが予言した帝国主義国家による植民地争奪を巡る覇権争いに過ぎないとのご託宣。
彼によると米国人の専門家の間でも単なる植民地争奪戦という見解は珍しくないという。しかし公言すると素朴な米国民の愛国心を傷つけるので沈黙を保っているらしい。
さらには日本海軍による真珠湾攻撃をルーズベルト大統領が事前に知っていたが、米国を第二次大戦に参戦させるために故意に“無視”(neglect)したと主張。
私は何人もの欧米人から第二次世界大戦の真因やルーズベルトの欺瞞については同様の見解を聞いていたので彼の言説は特に驚くには当たらなかった。むしろ第二次世界大戦をファシストから人々を解放した民主主義の勝利という虚構を未だに国民に押しつけている日本のマスコミのほうが歪んでいると思う。
さらに彼は1939年のイタリアによるアルバニア併合も負の面だけでなくプラスの面も評価するべきと指摘。ムッソリーニが推進した道路、水道などのインフラ整備、近代的工場建設など積極的な産業振興政策によりアルバニアは中世社会から一気に近代化できたという。
私がパルチザンによるアルバニア民衆の抵抗運動を指摘したところ、彼の反応は正鵠を得ていた。「確かに一部の民衆がパルチザンに参加して抵抗したことも事実であるが、他方でファシスト政権の下で社会が近代化したことも事実である。一方だけを見て他方を見ないのはバランスを欠く。色々な角度から歴史を評価しないと真実という全体像は掴めない」
⇒第3回につづく
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