2024年12月12日(木)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2019年1月9日

本当の「壁」

 第116連邦議会が1月3日に始まり、下院で多数派になった野党民主党のナンシー・ペロシ議員が下院議長になりました。ペロシ氏は2007年から11年まで下院議長を務め、08年米大統領選挙でバラク・オバマ上院議員(当時)を大統領にした立役者の一人でもあります。このとき、ペロシ氏はヒラリー・クリントン上院議員(当時)と対峙し、オバマ支持に回りました。

 ペロシ下院議長は嗅覚に優れた政治家です。前回の16年米大統領選挙においてトランプ大統領は、「国境の壁」を主要な争点にして勝利を収めました。ペロシ氏は、次の20年米大統領選挙では同じ「壁」を争点にすれば、今度は民主党候補が勝利できると読んでいるフシがあります。「壁を建設させない」「メキシコが壁建設費用を支払わない」の2つが、民主党が来年の大統領選挙を有利に戦う絶対条件になるといってもよいでしょう。

 ペロシ氏はまず政府機関の一部閉鎖を終了し、全面再開させ、次に壁建設の予算について協議を行うという提案をトランプ大統領にしています。一方、トランプ大統領は政府機関の再開と壁建設予算を同時進行させる姿勢を崩していません。

 余談になりますがトランプ・ペロシ両氏の対立構図は、北朝鮮に対して非核化実現を要求し、その後で経済制裁の解除に踏み切る米国と、双方を同時進行させようとする北朝鮮の衝突と類似しています。ただし、国境の壁建設の交渉では、前述したように、ペロシ氏は段階的解決を望み、トランプ大統領が同時進行の立場をとっています。

 話を戻しましょう。仮にトランプ大統領が国家非常事態宣言を行えば、米議会の承認を得ずに国防総省の予算を使って、米軍が国境の壁を建設することができます。ところが、同大統領は移民キャラバンの中にテロリストがいると主張していますが、確固たる証拠を示していません。従って、ペロシ下院議長は、非常事態宣言を「権力の乱用」とみなし、トランプ大統領を非難する可能性が高いです。

 下院議長に選出されたペロシ氏は、再び議長の木槌を手にしました。その瞬間から、同氏のレガシー作りの戦いが始まりました。20年米大統領選挙においてトランプ大統領の再選を阻止し、民主党候補を勝たすことができれば、それは間違いなく同氏のレガシーになります。

 トランプ大統領に立ちはだかる本当の「壁」は、ペロシ下院議長になりつつあります。

  
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