パフォーマンス?
レイオフは政治的なもの、あるいはマスク氏のパフォーマンス、という批判もある。実際レイオフによるコスト削減は年間で最高でも1億ドルだ。大型ロケットであるBFRや全世界に衛星インターネット網を提供するためのスターリンク開発費用から見るとあまりにも些少な額とも言える。
しかも、マスク氏が突然「BFRロケットの開発、組み立て施設をテキサスに移す」と発言した、と報じられ、ロサンゼルス市長が不快感を表すコメントを出す騒動も起きた。というのもロサンゼルス市はロサンゼルス港の一等地をスペースXに対し優遇リースで提供する、という発表が昨年行われたばかりだ。BFRは全長300メートルを超す大型ロケットで、「陸上での輸送が困難」であるため直接海上輸送に出せるロサンゼルス港での工場建設を市に対し申請していた。
この報道について、マスク氏は1月16日に「報道は正しくない。テキサスに作る予定なのはプロトタイプの開発施設で、ロサンゼルス港の工場建設予定は変わらない」と返答した。しかし大量リストラに続き土地価格が安く、企業誘致に熱心なテキサスが法人税の優遇などでスペースXにアプローチしているのも事実で、ロサンゼルスにとってはトヨタが米国の本社機能などをテキサスに移した、という悪夢が蘇るのも頷ける。現在ロサンゼルス市の南にあるホーソン市にあるスペースX本社までテキサスに移るのはなんとしても避けたい、というのが市の本音だが、テキサスに移ることでスペースXが経費を削減できる側面もある。
一方でこのようなコスト削減への努力は投資家へのアピールにもつながる。少数精鋭で最新技術開発に挑む、という姿勢が評価されるのだ。しかしそのようなポーズあるいはパフォーマンスのために首を切られる側としては納得できない、という声が上がるのも無理はない。
スペースXは米国でも有数の人気企業であり、就職は非常に困難と言われる。無償のインターンシップでさえ募集をかければすぐに枠が埋まるほどだ。会社とすれば人を減らしてもまた募集をかければ必要な人材はすぐに集まる、という考えかもしれないが、マスク氏の壮大な夢を共有したいと願い、努力を払ってきた人々への道義的責任が今後問われることになるかもしれない。今年もマスク氏をめぐる話題は尽きそうにない。
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