2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年2月26日

 昨年2018年8月にトランプ大統領が署名した米国国防権限法第889節は、中国の通信機器メーカーのファーウェイ・テクノロジー(華為技術)やZTEの製品を米国政府が調達したり使用したりすることを禁止した。2018年12月には、カナダで、ファーウェイのCFO(最高財務責任者)孟晩舟容疑者が、逮捕された。中国政府は、これに報復するかのように、中国国内でカナダ人を複数、逮捕した。今年2019年1月には、米国司法省が、正式に、法人としてのファーウェイとその子会社及びCFO個人を起訴した。 

(chuckchee/Dmytro Yarmolin/iStock)

 次世代移動通信規格5Gをめぐる米中の争いは、ますます先鋭化している。

 米中貿易戦争は、米中間の技術をめぐる争いにも発展し、それは、軍事競争にも発展し得る。そして、その技術戦争の中心は、現在5Gになっている。5Gは、単なる通信施設ではなく、工場の自動化、自動運転、遠隔医療など、IoT(モノのインターネット)時代の社会基盤になる可能性があると言われる。いわば、次世代の産業の主導権を握るものなのである。新たな技術革命とも言え、5Gを制するものが世界を制すると言っても過言ではないかもしれない。 

 その5Gで、米国は、中国に比して劣勢に立たされていると言う人もいる。ある民間調査会社によれば、2017年時点で1 万人当たりの5G基地局(電波を中継する)は、中国が約14万基であるのに対して、米国は4万7000基であったとのことである。その中で目立つのはファーウェイで、2017年の売り上げは世界全体の28%と、長年トップのエリクソンの27%を抜いて世界第1位となった。 

 米国が危機感を持っているのは、5Gで中国に後れを取っているのみならず、5Gのネットワークが情報の搾取に利用される恐れが高いからである。中国の「2017年国家情報法」は、中国の企業が中国の国家情報局を支援し、これと協力しなければならない、と規定している。5Gは広大な通信ネットワークで、米国はファーウェイが深圳の本部から世界に張り巡らされたネットワークにアクセスし、これを管理することを懸念している。 

 ファーウェイは、ネットワークを管理するソフトウェアに挿入したコードは悪意のあるものでも秘密でもなく、遠く離れたネットワークを常に最新のものに保ち、トラブルを分析するものだと説明しているが、場合によっては、企業がネットワークを監視するデータセンターにアクセスできるとのことであり、そのこと自体が懸念の対象なのである。トランプ政権が、5Gをめぐる中国との争いが、国家の安全保障を守る争いであると言っているのは、このリスクがあるためである。米国は、このリスクを「封じ込め」によって回避しようとしている。 すなわち、Five Eyes(米英加豪NZの5か国)の仲間に声をかけてファーウェイのネットワーク作りを共同で阻止する行動に合意したり、ポーランドやドイツにファーウェイの進出を拒むよう要請したりしている。日本も、菅官房長官はまだ何も決まっていないと言いながらも、政府調達のセキュリティ審査基準を厳しくし、安全保障上の脅威がある場合には、政府調達を制限できる仕組みをファーウェイとZTEに適用できるようにしたと報じられている。このような中国「封じ込め」政策がどこまで有効かは分からないが、少なくとも米国が本気であることを示している。 

 今後、米国を中心とする5Gのシステムと、中国を中心とする 5Gのシステムが併存する事態が想定される。これは、世界的なサプライ・チェーンが分断されることを意味し、経済効率の点からは、大きなマイナスであるが、5Gをめぐる争いは単なる経済上の争いではなく、安全保障の絡む問題であるので、経済的効率の考慮は二の次にならざるを得ないだろう。

 2月16日、ペンス米副大統領は、ミュンヘン安全保障会議で演説し、その中で、ファーウェイにも触れ、中国の法律では、保安機関にデータを提供するようファーウェイ等に要求していると述べ、そのリスクを強調した。そして、「通信技術や安全保障システムにマイナスになるような企業を排除することを、NATO同盟諸国に求めた。

 これに対して、2月17日、英フィナンシャル・タイムズ紙等が報じたところによると、ファーウェイの次世代通信規格5Gの導入に関して、英政府通信本部(GCHQ)傘下の国家サイバーセキュリティーセンター(NCSC)は、ファーウェイ機器を使用しても、何等かの制限をすれば、安全保障上のリスクは管理できるとの判断を下した。Five Eyesの一国から、このような判断が出たことは、他の欧州諸国等にも影響を与えよう。米中間の5Gを巡る争いは、まだまだ続きそうである。

  
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