WEDGE REPORT

2019年4月2日

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 赤字を垂れ流す炭鉱を民営化で閉鎖に追い込み、労働組合を弱体化させる一方、規制緩和で起業を促した。北海油田の産出が本格化する追い風も吹いた。現在では英国で生産される自動車の半分をつくる日産、ホンダ、トヨタを呼んだのもサッチャー首相だった。

 ビッグバンでロンドンを世界一の金融都市に押し上げたのも彼女の功績だが、EU離脱の混乱で世界一の座を米ニューヨークに明け渡した。国際会計事務所アーンスト・アンド・ヤングは、EU離脱で金融の単一パスポートが使えなくなる恐れがあるため、7000人以上の仕事と約8000億ポンドの資産がロンドンからEU側に移されると分析している。

 北海油田が底をつき始め、英国への直接投資は不確実性を嫌って16年から17年にかけ約1000億ポンドも縮小した。英国にとってEU離脱は短期的にはどう見ても「大赤字」だ。

 また、英国は25年までに石炭火力発電所を廃止する。さらに現在、稼働中の原発は1基を除いて30年までに廃炉となるため、5カ所で原発建設が計画されていたが、東芝が英国での原発建設から撤退したのに続き、日立も原発建設を凍結した。

 日本勢の撤退で残る3カ所を引き受けるのはフランス電力(EDF)と中国広核集団(CGN)の企業連合だ。この両国が手を引けば発電能力に大きな穴が出て、計画停電を強いられる恐れがある。

 そんな英国の足元を見て揺さぶりをかけるのが中国だ。

 2月、英最新鋭空母「クイーン・エリザベス」を太平洋に派遣することを国防相が発表したが、中国側は「冷戦メンタリティーだ」と反発し、ハモンド財務相の訪中がドタキャンされた。ハモンド氏は「中国との関係は複雑で、大切だ」と苦衷をのぞかせた。

 昨年8月には「航行の自由」作戦に参加する英輸送揚陸艦アルビオンが南シナ海西沙諸島に近づくと、公海上にもかかわらず200メートルの距離で中国の軍艦に追尾され、中国の軍用機が上空を飛行する事件が起きている。

 英高級紙のエディターが匿名を条件にこう語る。「キャメロン前政権のオズボーン財務相が英中黄金時代を推進した。中国マネーへの開放政策は今後、さらに多くの問題を引き起こすようになる。投資を必要とする英国は中国の圧力に脆弱(ぜいじゃく)だ」

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