投資は6年間で10分の1に
「七重苦」で萎む英国自動車産業
英国自動車産業は「七重苦」に苛(さいな)まれている。独フォルクスワーゲンのデータ改ざんスキャンダルでディーゼル車の販売が激減し(①)、環境規制が一段と強化された(②)。ディーゼル車やガソリン車の新車販売禁止を10年前倒しして2030年から実施しようという声が国内で高まる。
緊縮財政の後遺症でユーロ圏の内需は低迷する(③)。米中貿易戦争(④)と中国経済の減速(⑤)。EU離脱後のビジョンが明確に描けないこと(⑥)もあって、3年前には年200万台を目指していた英国での自動車生産は150万台を割り、投資はこの6年間で10分の1に縮小した。
これに対して、安倍政権はこの2月、EUと8年後に自動車関税を撤廃する経済連携協定(EPA)を発効させ、日本から関税ゼロで完成車を欧州に輸出できる道を開いた。これにより、日本の自動車メーカーは域内関税のないEUから出ていく英国でわざわざ生産しなくてもよくなる(⑦)。こうした「七重苦」に、欧州で苦戦してきたホンダの撤退が追い打ちをかけた。
07年、ホンダは欧州で31万台以上を売り上げたが、翌年の世界金融危機による落ち込みを回復できず、昨年の販売台数は14万台を割った。スウィンドン工場の生産ラインも14年から1本に絞られた。
仏ルノーとアライアンスを組み、電気自動車リーフを英サンダーランド工場で生産する日産も、同工場で計画していたスポーツ用多目的車「エクストレイル」の次期モデル生産を撤回した。
EU離脱や環境規制など、「七重苦」は、自動車産業だけでなく、金融やエネルギーなど英国経済全体をも苦境に陥れている。かつて高失業率と20%を超える高インフレに苛まれた英国経済を復活させたのは「鉄の女」サッチャー首相(在任1979~90年)だ。フォークランド紛争に勝利して英国の威信を取り戻し、レーガン米大統領を巻き込んで冷戦を終結させた。