2024年12月10日(火)

World Energy Watch

2019年3月13日

 韓国公共放送(KBS)の記者から依頼があり、1月末東京でインタビューを受けた。インタビューの目的は「テレビ番組を制作するので、文大統領が選挙公約に基づき進めている韓国の脱原発は可能か意見を聞きたい」ということだった。

 「エネルギー供給の安全保障と電気料金の問題を考えれば脱原発は簡単ではない」というのが答えだが、撮影もされた1時間のインタビューがどのように編集され、韓国で放送されたのか残念ながら分からない。

(Blablo101/Gettyimages)

 文政権は脱原発に加え、大気汚染PM2.5問題への対処、温暖化対策のため石炭火力発電所の削減も進める方針だ。コスト競争力があり韓国の発電量の約75%を占める原子力と石炭火力の一部を再生可能エネルギーとLNG(液化天然ガス)火力で代替するする計画だが、実現すれば電気料金は大きく上昇することになる。そのためか、大統領選前から文大統領が打ち出した脱原発政策だが、具体策を見ると脱原発とは名ばかりで中期的には原子力、さらに石炭に依存する形が続く。

 韓国政府は、国民生活を考え家庭用電気料金、加えて輸出競争力確保のため産業用電気料金を政策的に安く抑えてきた。

 依然として政府が電気料金を規制している韓国では、燃料価格上昇時に本来必要になる電気料金上昇を認めず、政府が過半の株式を保有する韓国電力公社(KEPCO)が燃料値上がり分を吸収する形で赤字を計上することがあった。

 2014年の原油価格下落によりLNG、石炭価格も下落したことからKEPCOの収益は改善の兆しを見せていたが、昨年の燃料価格上昇により収益は悪化している。今回の赤字が電気料金値上げに結び付くかは不透明だ。

 文政権は脱原発を打ち出したものの、国民生活と産業に影響を与える電気料金の上昇を抑制するため、掛け声だけであまり中身がない具体策を打ち出している。

 廉価な電気料金のため電力消費量が多い家庭に料金値上げの影響は大きく、また輸出産業が国内総生産額(GDP)の40%を超える韓国経済にとっては、料金の上昇は大きな負担になる。脱原発は掛け声だけで、実際には電気料金の抑制、競争力の維持が第一になっている。

 韓国は原発の新設も行い、原子力技術の維持、東欧など海外市場への売り込みも視野にいれている。大統領自らが原発輸出のセールスを行っている文政権の脱原発政策に惑わされてはいけない。


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