分割による問題解決
「分割統治」の「コト」版とは、そのままで解決できない大きな問題をいくつかの小さな問題に分割し、一つひとつ解決していき、最終的に問題全体を解決する、という手法である。
政治家が打ち出す公約。いってみれば、問題の集合体でもある。これらの公約を、実施の難易度や問題の性質に基づいていくつかの問題グループに分割し、解決していく。
前提は民意から大きく乖離しないこと。たとえその民意がどんなに馬鹿げたものであっても基本的にそれをフォローすることだ。保護主義や孤立主義に傾く民意は問題のある民意かもしれないが、それでもトランプ氏はストレートに受け入れ、その民意を公約に反映させようとした。いくら民主主義制度の下で選ばれたトップといえども、理性的な政治家ではなかなかできないことだ。
結果からいうと、トランプ氏は大統領に就任してからの2年間で、選挙時に掲げた公約の大半を達成した。非常に優秀な成績と言わざるを得ない。経営者としての問題解決力は評価されても良さそうだ。
問題の分割解決にあたっては、その問題の分割方法と解決の優先順位が非常に重要である。問題と問題の間に関連性があったりなかったりするからだ。問題Aを解決したことによって、問題Bの解決に有利な条件を提供し、問題Bを連鎖的に解決できることがある。逆に最初から問題Bに着手した場合、大変苦労したり、あるいは問題Bを解決したにもかかわらず、問題Aに関連性が薄い故に、問題Aの解決になお多大な労力がかかったりすることもある。
問題の本質とかかる諸要素の関連性を見抜く力が必要だ。たとえば、米朝交渉の席から立ち去る姿勢を見せ、それによって米中交渉における主導権と優位性を確立し、さらに米中交渉の妥結を安易に目的とせず、米中貿易戦争の最終的戦勝にパースペクティブ的な視点を据えるというアプローチ・チェーンを見る限り、トランプ氏はその能力に長けているようにも思える。(参照:米朝決裂をどう見るべきか?不敗の交渉と深遠な謀略)
TPPよりも2国間交渉を好む理由
トランプ氏は躊躇なく、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の離脱を決断し、その代りに2国間交渉を好んだ。その理由も「分断」「分割」の原理に通じている。12カ国も一括して交渉するよりも、各国と個別交渉し、いわゆる「各個撃破」の手法を取ったほうが有利だとトランプ氏が考えたのだろう。
経営者は一般的に労働組合との団体交渉よりも、労働者との個別交渉を好む。なぜならば、個別交渉の場合会社がより強い立場に立てるからだ。逆に労働者は経営者に対して、対等の立場で労働条件の維持・改善を主張するために、労働組合による団体交渉を好むのも同じ原理に基づく。
TPPからの離脱も一種の「分断」である。自ら分断を受け入れ、他の11カ国にある種の「痛み」を作る。そこで、いざ復帰交渉になれば、米国がより有利な立場に立てる。したたかなトランプ氏はそう考えていたかもしれない。2018年4月16日、トランプ氏は離脱を決めたTPPについて、オバマ前政権下で合意した条件より「大幅に良くなる場合」には復帰を検討しても良いと表明した。もちろん、彼は老獪な交渉家であるから、すぐには実務交渉に持ち込もうとしなかった。「分断」状態を意図的になるべく長く引き延ばそうとした。
連載:トランプを読み解く
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