宮城県を除くと農林水産業と公共土木施設の被害額は1兆7628億円である。農林水産業被害の多くは個人財産なのだから、東日本大震災での公的資産の被害額が2兆円であるという私の推定値は、大きくは間違っていないだろう。
被害額が公的資産2兆円、民間資産4兆円という数字から始めれば、19~23兆円の復興費などという話にはならない。
戦費節約のおかげでアメリカは勝てた?
こう書くと、東日本大震災という国難に対して、皆が心を合わせて復興を考えているときに、コストだけを考えてどうするのかという批判があるかもしれない。しかし、後に副大統領、大統領になるハリー・トルーマン上院議員は、ヨーロッパでの戦争がすでに始まり、日本との戦争が始まりそうな1941年に、軍事費の不正使用を問題とする「トルーマン委員会」を設立して、150億ドル近い浪費を削減した。トルーマンは、これによって全国的に有名になった。アメリカ国民は、軍事費の浪費を抑えてこそ、ナチスや日本との戦争に勝てると考えたのだ。トルーマンは、44年には副大統領候補に指名され、ルーズベルトの急死とともに大統領に昇格した。
一方、戦時中、軍のお先棒を担いでいた大日本言論報国会会長の徳富蘇峰は、敗戦後、「アメリカ辺りでは、現大統領のトルーマンの如きは、上院議員の一人として、軍事費の濫費を、逐一実際に徴して指摘し、その為に、少なからざる節約が出来たと聞いているが、日本では、左様な議員もなければ、議会もなく、(軍の)勝手放題に一任しておいた。……元来日本の軍需品製造に必要なる材料は、殆ど陸軍と海軍とが、分け取りして、これを押さえていたのである。……不足の原因は、全く彼らの仕事が緩慢であり、不能率であったという事を証明する外に理由はない。もし陸海軍が一元化し、あらゆる力を集めたならば、決して飛行機の不足などという事に、悲鳴を揚ぐる必要はなかった事は、我等ばかりでなく、天下の人が皆これを保証している」と書いている(『終戦後日記』176頁、講談社、2006年)。官僚が剣を吊るしているだけの武官(徳富蘇峰の言葉)がきちんとやれば、飛行機は十分造れたとは思えないが、彼らの非効率がなければ、生産がより順調であったというのは事実なのだろう。
コストを考えてこそ、大震災からの復興に成功することができる。仙台湾で津波の大きな被害を受けたのは湾に面した若林区だが、そこは水田と住宅が入り混じる地域だ。床下浸水程度の被害でも、水田は塩を被って使用できなくなる。塩抜きするには大変な費用がかかるらしいので、被災農家は、国の援助を求めている。一方、津波で家を失い、地盤沈下で住めなくなった人々もいる。塩抜きよりも、宅地転用して、住めなくなった土地の人々が住めるようにすれば良いではないか。100年に1度、1000年に1度の床下浸水地域を住めない場所にする必要はない。塩抜きや、堤防を造って沈下した土地に住めるようにするより、ずっと安くすむだろう。
日本では、コストと効率性の観点なしに議論が行われる。水田を塩抜きするより宅地にした方が安上がりということに気がつかない日本人に、アメリカと戦うのは、そもそも無理なことだった。
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