オルークの幼馴染
白人女性のクリスティンさん(46)は金髪ですが、前髪の約半分を水色に染めていました。地元エルパソ出身でオルーク候補と同い年の彼女は、同陣営のボランティアの運動員です。テキサス大学エルパソ校で修士号を取得し、教師の職に就いています。
「べトは教師の賃金値上げを主張しているので、彼を支持しています」
クリスティンさんはオルーク候補支持の理由に賃金値上げを挙げましたが、本当の理由は別のところにありました。
「べトと最初に話をしたのは、子供のころです。4、5歳だったと記憶しています。私の両親はべトの両親と付き合っていました。べトの父親は自転車に乗っていたとき、後方から自動車に追突され亡くなりました。元判事で、エルパソにあるYMCAの建物に彼の名前(パット・オルーク)が刻まれています」
クリスティンさんとオルーク候補は幼馴染でした。筆者が日本からオルーク候補の集会に参加するためにエルパソを訪問したと伝えると、親しみをもって接してくれました。
「私がモトオ(筆者)を(メキシコとの)国境とべトの自宅に連れて行ってあげるわ」
集会が終了すると、クリスティンさんは自慢のホンダアコードに筆者を乗せて、国境に向かいました。
「あちらがメキシコ。フェンスが見えるでしょ。べトは難民申請者にも人権があると主張しているの」
メキシコとエルパソの国境では現在、中米からの難民申請者がチェーンリンクフェンスや有刺鉄線に囲まれた場所で拘束されています。クリスティンさんは、移民政策に対するオルーク候補の立場を強く支持していました。
メキシコとの「国境の壁」建設を「公約の中の公約」に掲げるトランプ大統領はうえで触れた中西部ミシガン州グランドラピッズで開催した集会で、「移民は本当は米国を利用しようとしているのに、自分たちは難民申請者だと言い訳をしている」と非難しました。国境の街エルパソで生まれ育ったオルーク候補と反移民を掲げるトランプ大統領は、難民申請者を巡って真向から対立しています。
「次は、サンセットハイツにあるべトの家を見にいきましょう」
クリスティンさんはそう言うと、今度はロサンジェルス通リとテラス通りの角にあるオルーク候補の自宅に向かいました。
「この地域には富裕層は住んでいないけれど、べトはとてもいい家に住んでいるの」
オルーク候補の家は2階建ての白色の家で、駐車場に壁掛けのバスケットゴールがありました。集会で舞台に上がった同候補の2人の息子と1人の娘がトヨタ車から降りて、バスケットボールをするところでした。筆者がバスケットボールを持ったオルーク候補の息子に手を振ると、彼は笑顔で答えてくれました。
「彼はあなたたちのパパを応援するために、日本から来たのよ」
クリスティンさんが、車の中から子供たちに向かってこう叫びましたが、彼らはまったく理解していない様子でした。
その後、オルーク陣営でボランティアとして選挙運動をしているクリスティンさんの知人と3人で、メキシコとの国境のそばにある彼女のお気に入りのメキシコ料理のレストランに行きました。カウンターに座って、テキーラを呑みながらチップスにワカモレをのせて食べていると、突然彼女が声のトーンを下げて次のように語ったのです。
「私はべトが市議会議員に立候補したときから、彼のボランティアをしているの。べトはいい男。彼とデートをしたかったわ」
クリスティンさんは今でもオルーク候補に強い思いを抱いているようでした。
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