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2019年4月11日

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樋泉克夫 (ひずみ・かつお)

愛知県立大学名誉教授

中央大学法学部、香港中文大学新亜研究所、中央大学大学院博士後期課程を経て外務省専門調査員として在タイ日本国大使館勤務。著書に『華僑コネクション』『京劇と中国人』『華僑烈々―大中華圏を動かす覇者たち―』(以上、新潮社刊)など。

[著書]

タクシンとは“ホリエモン”のような存在

 以上を前提にして次なる「もし」だが、仮に陸軍が強い政治的影響力を発揮していた昭和20年以前に全盛期の「ホリエモン」が現れ、財閥によって形作られてきた財界の仕組みに打撃を与える一方、莫大な原資で政党を再編・糾合して国政を動かすようになっていたら、である。そうなった場合、既存勢力は危機感を持ち、身構え、態勢を整え、糾合してホリエモン勢力の包囲・阻止に動いたはずだ。

 タクシンとは言ってみれば、このホリエモンのような存在である。こう考えてこそ、2005年から続くタクシン派と反タクシン派の激しい対立の背景が浮かび上がり、2014年のクーデターから今回の総選挙を経て、現在も継続する混乱状況の底流を捉えることができる。

 そこで注目すべきは、2017年夏の国民投票を経て公布された現行憲法に従って制定された現在の選挙法だろう。

 全国に350の小選挙区を設けると同時に、150の比例議席は全国の小選挙区選挙で投じられた総得票数から割り出された基数によって各政党に配分される。だが、当該政党が小選挙区で獲得した議席数が同党に割り当てられるはずの比例議席数を上回っていたなら、比例議席はゼロとなる。小選挙区で最多議席を獲得したタイ貢献党の比例議席がゼロだったのは、この規定が適用された結果なのだ。

iStock / Getty Images Plus / Rawf8

 この制度は「下院の民主的運営を目指し巨大政党による独裁阻止」を“大義名分”として定められた。その背景に見え隠れするのは、2000年初頭の政権掌握以降の総選挙において常に下院過半数を押さえ単独政権を維持してきたタクシン派に対する危機感である。

 法制度面で不利な立場を跳ね返そうとタクシン派が打った新たな試みが、昨秋結党された若手中心の「国家維持党」である。タクシン派を2党に分け全国の支持票を分散させることで、比例区での議席ゼロを回避しようと狙ったに違いない。

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