2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2014年9月12日

 タイの政情はとりあえず安定したが、真の正統性を欠く軍事政権にとって最大の問題は低迷する経済だ、とエコノミスト誌8月9-15日号が言っています。

 すなわち、タイではクーデター以来、軍が政治を独占しているが、バンコクは平穏であり、多くの一般市民は利己的な政治家連中の追放を悲しんではいない。しかし、軍事政権が支持されているかと言えば、それも不明だ。政権批判は今や犯罪行為であり、報道も統制されている。

 そうした中、プラユット将軍らは正統性の外観を取り繕うのに懸命だ。クーデターについて国王の承認を取り付け、8月7日には、皇太子臨席で軍人や旧支配層から成るお手盛りの新国会を開会させた。

 そして、以前のクーデター首謀者と違い、完全な支配権を維持しようと、暫定憲法で絶対的権限を確保、インラック政権打倒に関する行為には恩赦を与え、軍人たちを法的に保護している。

 また、タクシン一族の政治生命を完全に絶とうとしている。インラックは出国を許され、パリでタクシンと合流したが、彼女には帰国して起訴されるか、亡命するかの選択肢しかない。選挙がなければ、タクシンたちは無力だ。

 最大の問題は経済で、タイ経済は今年大幅に縮小した。支えである輸出は成長が止まり、家計は重い借金に圧迫されている。おそらくタイは今年アジアの中で最も経済的に振るわない国になるだろう。将軍たちにとり、経済の回復こそが最優先課題だ。

 そのため、投資家を安心させようと、プラユットは自ら投資委員会の委員長に就任して数十億ドル相当の投資案件を承認し、さらに、高速鉄道2本を含む多数のインフラ計画も承認するなど精力的に動いている。しかし、計画を承認することと、計画を実行して実際に経済に貢献することとは全く別問題だ。軍の取巻きが甘い汁を吸うと予測されることもマイナス材料だ。

 民主主義の実現も当分待たなければならない。政府は2015年10月に総選挙を行うと言っているが、そもそも今回のクーデターは、タクシンを勝利させた選挙制度を覆すことが眼目だったことを考えると、軍事政権が選挙権に何も制限を加えないとは思えない。また、新憲法が国民投票にかけられるかどうかもはっきりしない。


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