2024年12月23日(月)

Wedge REPORT

2019年5月28日

 航空機などに使われる金属部品の熱処理加工を行う多摩冶金は、2016年から専門学校、大学、大学院の新規卒業予定者の採用を始めた。東京都武蔵村山市に本社や工場を構え、連結で社員数は120人。57%が事務職で、工場などの現場は43%。

 新卒採用者数は16年に2人、17年に2人、18年が2人、19年が3人で、計9人。2019年5月時点で退職者はゼロで、定着率は100%。

 採用方針は、会社と学生との相性を重視する「マッチング選考」や「学生が自分で会社を選んで、決めて、入社することを尊重する」である。

 2019年4月入社は、総合職2人(大卒)、一般職 1人(大卒)。今回は、2018年春~秋までの採用活動の流れをもとに同社の採用責任者などに取材を試みて、定着率100%の実態に迫りたい。なお、2020年4月入社予定の採用活動も、これまでとほぼ同じプロセスで昨年(2018年)秋から始めている。採用予定人数は、2∼3人。

 中小企業は業種を問わず、特に20代の社員の定着率は概して低い。定着率100%の多摩冶金の採用活動のどこに秘訣があるのかを読者諸氏と考えてみたい。

採用試験を始める前に、多摩地区でのネットワークづくり

 新卒採用を本格化させた2016年の数年前から、本社のある都内多摩地区を中心にネットワークづくりを進めてきた。多摩地区は、立川市、八王子市、武蔵野市、三鷹市、青梅市、府中市、昭島市、町田市、調布市、小金井市、小平市など26市、4町村で成り立つ。

 副社長やキャリアコンサルタントの資格を持つ総務グループのマネージャーが挨拶を兼ねて各地を訪問し、自社を説明することから始めた。対象は、金融機関や経済団体、大学や専門学校、市役所などの自治体が多い。

 「特にPRするのは、新卒採用に力を入れたいきさつや社の現状、育成の方針や福利厚生などを含めた人事の態勢。さらに、労働時間の管理(2018年は月平均残業は12.7時間)や有休消化率などの就労環境は、同業界の中小企業と比べて整っていることも説明してきた」(山田真輔 取締役副社長)

2019年4月入社の新入社員が社内で研修を受ける

 多摩地区でのネットワークづくりと並行し、15年からは大手の求人サイトに掲載した。総務グループマネージャー・平岡恵美子氏はこう語る。

 「私たちの当面のターゲットは、ネットを使う全国の学生というよりは、まずは、多摩地区で仕事をしていきたいと願う学生。従って、地元とのネットワークを通じて学生や保護者、大学や専門学校の就職課やキャリアセンターに知ってもらえるようにしている」

工場での熱処理装置

 大学訪問は、「中堅校」を中心にまわる。「中堅校」は中小企業への就職に力を入れるケースが多い、と2人は実際に大学を訪問したうえで感じている。

 首都圏では、特に中堅の私立大学(文系、理系、学部を問わず)20∼30校に狙いを定め、副社長や総務マネージャーが就職課やキャリアセンターを訪ね、PRしてきた。学生に多摩冶金を紹介してもらえる見込みがある大学にはさらにアプローチし、関係を強化する。

 「私の実感では、多摩地区での就職を希望する学生が増えている。このような学生は自宅から通い、通勤の電車は、ラッシュ時でも席が空いている“下り”を好む傾向がある。都心の駅から、当社の最寄り駅のJR昭島駅や西武立川駅などに向かうほうが好きなようだ。そして、残業は少なく、就労環境はホワイトであること。これらを入社の条件にする学生がよく現れる。この層をターゲットにするのが、当社の現状にはマッチングする」(山田氏)


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