2024年12月23日(月)

<短期連載>ペット業界の舞台裏

2011年12月22日

 私もかつて勤務していた生体販売を行っているペットショップ。足を運ぶと、たくさんの子犬や子猫がケージのガラス越しから愛らしい仕草で来店者を迎えてくれます。やはり幼い動物はかわいいもので、新しい家族を迎え入れようとする目的以外に癒しを求めて来店する方も多いようです。あるショップでガラス越しにその仕草や寝顔を眺めていると……

愛くるしい子犬たち。しかしその「売り時」は短く・・・(写真:筆者提供)

店員:「こんにちは、どんな仔をお探しですか?」

私:「いや、家には先住犬がいるから見学です」

店員:「ワンちゃんは複数で育てた方が楽しいですよ! この仔は特別かわいいですし親もチャンピオン犬で血統も特別ですよ!」

私:「いや、既に3頭いてこれ以上は・・」

店員:「そうですか、でも3頭も4頭も一緒ですよね、セール中なのでお安くしておきますよ!」

私:「いや、増やす気もないし持ち合わせもありませんので・・」

店員:「でも、取りあえず抱っこしてみませんか? ぺろぺろ舐めてきたら相性が良い証拠です! 明日にはもういないかもしれませんし、今日は内金だけでも構いませんから! 価格も特別に交渉しますよ!」

 こんな接客を受けた経験をお持ちの方も多くいるのではないでしょうか? 小売り店舗なので接客をするのは当たり前ですが、問題はトークの内容。犬や猫を育てるためには家庭環境や家族構成、収入や飼育経験の有無などの条件が重要なはずですが、金額や支払い方法以外は“かわいい”や“良血統”のみで、その犬種の性格や飼育方法などが全く含まれていません。さらに多頭飼いを勧め、即決を誘導。とにかく衝動買いを促すトークが続くのです。極めつけは“抱っこ”。実はこれ、今も昔も生体販売の奥義として販売員が使う方法です。“迷っている客には抱っこさせたら勝ち”これも業界の常識です。

「売り時」が短い犬猫

 生体販売を行っている店舗の収支で一番上位に来るのが生体の売上です。売上金額も利益率も、他の商材と比べて格段に良いのです。反面、在庫を抱えていると経費がかかり続けるため、仕入れから販売までの時間を短縮することが店員に求められます。

 子犬や子猫の商品としての旬は生後45日から60日という業界の常識があります。この時期の子犬・子猫は幼さが残っていて、仕草も外見も一番可愛い時期と言われ価格も高く設定されています。特に犬は生後4カ月ほどで、毛の生え換わりで少し貧相に見えてしまい、生後8カ月で大人サイズにまで成長するため、“売り時”はとても短いのです。

 そのため旬を過ぎ、幼さが薄れていくにつれ、価格は安く設定されます。経費はかかり続けるのに価格は下げないと購入してもらえない。これが衝動買いを促す小売店の事情です。残念ながらこの衝動買いの先には理不尽に処分されている多くの命が存在します。


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