2011年11月の末、レアアースの探査で豪州を訪れたとき、なんとも幸運な女性に出会った。ダーウィンの鉱山会社に勤めている地質学者であるタラさん(Tara Muth25歳)は、仕事をはじめて第一発目の試掘で見事にレアアースを探し当てた。同行した石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の担当者は「奇跡に近い快挙だ」と手放しで絶賛した。通常は、まず物理探査を経て試掘を行う。物理探査で兆候を見つけるのは簡単だが、試掘をしてもなかなかヒットしない。山師の仕事が「千に三つ」といわれる所以だ。
豪州大陸北部に位置するダーウィンは人口8万人足らずの地方都市だ。ダーウィンから120キロ離れた鉱山に行くには、ヘリコプターで2時間ばかり飛ぶ。鉱山のベースキャンプは、RVで大陸を廻る一般の旅客も宿泊できる施設の中にあるから、プールやレストランやバーで寛ぐこともできる。
ヘリが降下するとユーカリの森を伐採して作った飛行場が視界に入ってくる。気候は熱帯雨林性で11月の気温は平均摂氏32度で湿度は85%もあるが、コンテナを改造した宿泊設備兼鉱山事務所の中はクーラーが効いているので長時間の会議でも痛痒は感じない。
タラさんは2年前にカナダからダーウィンにやってきたが、自然にあふれたここの環境が気に入っているという。鉱山技師だった父親が、夏休みにはキャンプやハイキング、冬休みにはスキーやスケートに連れて行ってくれたから自然の中で暮らす生活は彼女の知的好奇心を満足させてくれると言っている。
ベースキャンプからさらに10キロ離れたレアアース鉱区にヘリで移動した。09年から探査を続けている鉱区だ。しばらく調査を進めているうちに、50メートル毎のドリリングポイントの途中でタラさんが急にしゃがみこんでしまった。社長のイアン氏も私も彼女が腹痛でも起こしたのかと思い、心配して覗き込んだら「ほらこれを見て」としきりに山野草の葉っぱを指で擦っているのである。するとその小さな山野草はヘニャヘニャとお辞儀をした。私は俄かにオジギソウ(Sensitive Plant)の英語名が判らなかったので「It must be KONNICHIWA grass」だというと、彼女は「No, this is ARIGATOU grass」だと悪戯っぽく答えた。勘の良い人は、過去の経験や独自の観察眼で仮説を立てて当たる確率が高い。タラさんは、自分の仮説(信念)に正直に試掘を実行しただけなのかもしれない。
鉱山の探査調査を終わりダーウィンに戻ると社長からディナーに招待された。川沿いの洒落たレストランに行くと直ぐには気がつかないほどドレッシーに着飾ったタラさんが先に来ていた。横に座ったタラさんにレアアースを一発で発見できた秘訣を聞いてみたら「さあね、言ってみれば女の第六感かしら?」とはぐらかされたが、そのチャーミングな横顔に年甲斐もなくドキッとさせられた。