2024年4月18日(木)

Wedge REPORT

2019年6月21日

文科省の英語政策にも原因

Q 日本人が「英語ができない」だとしたら、文部科学省の英語政策に原因があると指摘されているが

A その原因は過去20~30年間の文科省の英語政策に原因があると考えるのが自然なのではないか。1989年から始まったコミュニケーション重視の教育政策によって、明らかにしゃべる方に重点がおかれるようになった。そのあげくに、10年ほど前から「英語の授業は英語で」ということが学習指導要領で明示されるようになった。文法の説明はするな、訳読はするなというお達しもある。まったく非現実的で、現場でもたいして守られていない。

 オーラルの練習をすること自体は悪くはないが、あまりに極端。海外で流行している学習法をすぐに振りかざす人もいるが、そうした方式の問題点をきちんと見極めていないので、日本の現状にすぐわないことが多い。

 本来、ビジネスの現場でも英文を読んだり書いたりする力こそが大事なのに、今、うわすべりのオーラル英語偏重のために学生の基礎力はがた落ちで、単語も知らないし、構文のルールもわからないということが起きている。これは大学で教えている実感だ。

 経済界の人も、日本人は英語を話せない!とヒステリックに反応するのではなく、なぜそうなのか、ほんとうに目指すべきなのは何かということを冷静に考えて欲しい。しゃべれないのは事実なので、やり取りの力を向上させる取り組みは必要だが、「しゃべるためには、とにかくしゃべる練習を」というのは誤った思い込み。英語の場合は、日本語よりもずっと書き言葉と話し言葉の差は小さいので、リーディングやライテング、ヒアリングを組み合わせるほうが効率のいい勉強ができる。

Q 民間の英語の試験を導入するいまの流れを止めるための代案としては何が考えられるか

 世の中が口頭での「やり取り」の力の向上を求めていること、大学側もそうした要請に応えようとしている現状を無視することはできない。しかし、「スピーキング」の試験を受験生全員に課す必要性は全くない。先にも言ったように、スピーキングほどモチベーションなしでは向上しないものはない。しゃべる内容がなければスピーキングも何もない。

 そういう意味では、スピーキングは選択制にして、受けたい人だけ受けるオプションにすればよい。しゃべるのが苦手な人や興味のない人は、筆記やリスニングのテストで代用すれば十分英語の基礎力ははかれる。そういう人もいずれ必要性を感じたら勉強を始めるかもしれない。

 オプションとしてのスピーキングテストは、いずれは大学入試センターが管理するべきだが、それまではスピーキングテストだけを民間業者が提供すればいい。「4技能」などと称して無理矢理抱き合わせ販売にするから、受験生に無駄なお金がかかったり、地域の不公平感などの格差が生じたりする。

 24年以降も、共通テストは継続するべきだ。大学入試センターの試験が完全になくなり、さらに進んで2次試験まで民間業者が行うようになったりしたら、英語教育は「終末期」といっていだろう。英語力は壊滅状態。

 話すのが得意でなくても英語に興味のある受験生はたくさんいる。ダイバーシティということを言うなら、「4技能均等」などという非現実的なイデオロギーを振りかざしたり、安易な英会話の流行に流されるのではなく、「やれることからやろう」「やりたいことをやろう」とのびのび勉強させたい。

 ついでに言えば、スピーキングは国によってカルチャーの違いもある。欧米では流麗に話すのが良いとされるが、日本ではむしろ訥々と話した方が説得力があったりする。つまり、「言葉を話す」ことをめぐる根本的なルールが違うのだ。おそらくそうしたことも、日本人が「英語しゃべれない」と言われる原因の一つになっている。

変化見られる欧州の姿勢

Q 日本語が十分に分かっていない時期である小学生から英語を教えることについては

 ほんとうに大事なのが何かをしっかり見極めたい。そんなに英語を話させたいなら英語圏に住めばいいだけ。しかし、そこでは英語がしゃべれても「ただの人」だ。もちろんそういうオプションもありだろう。しかし、日本語をしっかり土台にすえたいなら、インターナショナルスクールに入れるなどの「英語漬け」のリスクはしっかり認識したい。

 小学生のうちに英語に触れること自体は悪いことではない。まずはリスニングからやりたい。外国語を学ぶことで日本語を忘れてしまうという危険のない範囲で、外国語に触れるのは悪いことではない。

Q 第2言語の学習を評価する上で日本が参考にしてきた欧州にも変化がみられるようだが

 欧州ではいまは「4技能」という枠組みそのものが見直されている。「7技能」という言い方も出て来たようだが、これもまた改変されるかもしれない。所詮流行に過ぎない。ただ、そこに共通しているのは、自分の得意とする能力を伸ばさせるという姿勢だ。うわすべりの「4技能教」は、早晩、「昔の話」となるだろう。

  
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◆Wedge2019年7月号より


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