三農問題解決は国家命題
中国農業の変化が目まぐるしいのは、背景に「三農問題」と呼ばれる深刻な課題があるからだ。これは、(1)農業生産の低迷(2)農家所得増の鈍化(3)農村の疲弊――という農に絡んだ負の連鎖のこと。改革開放の恩恵を受け、経済成長を続ける沿岸部の都市との格差は開く一方だ。
1997~2003年の農民の収入の伸び率は、いずれの年も5%に達さず、都市住民の収入の伸び率の半分に過ぎなかった。
「農民はほんとうに苦しく、農村はほんとうに貧しく、農業はほんとうに危うい」
これは、湖北省の棋盤郷の李昌平という共産党委員会書記の言葉だ。2000年に李が首相に宛てた手紙に記し、中国国内でセンセーショナルに取り上げられた。こうした状況への危機感の表れとして、その後16年続くことになる三農問題をテーマとした最初の一号文件が2004年に登場したのだった。
農業の大枠の数字を押さえたい。中国の農林水産業の産出額は1兆ドルを超える。農民戸籍を持つ人は9億人超。このうち、出稼ぎなどで農村を離れている人口も相当いる。それでも、農業従事者は3億人いる。GDPに占める農林水産業の割合は下がり続け、7%台まで落ち込んだ。改革開放政策の始まった1980年代は30%台で、地位の下落ぶりが分かる。
農業経営体当たりの耕地面積は0.64ヘクタール(2015年)で、国内平均の2.15ヘクタール(2018年、北海道を除く)を大きく下回る。人口が多いわりに農地が狭く、労働生産性が低い。
三農問題の解決のために例年1兆元を超す巨額の国家予算が投じられている。ただ、問題は解決から程遠い。農村部の貧困脱却のため、条件不利地の村を丸ごと移転し、近代的な生活環境を整えた「新しい村」を作ってしまうといった荒療治もある。本来農民を豊かにするための収量の多い品種の開発や、過度なまでの化学肥料の施用の推奨が、農民に高すぎる種代や化学肥料代を負担させることになるというパラドックスも。
ただ、どのような形であれ、中国農業は前に進もうとしている。過疎高齢化の進む生産現場が変化を迫られているだけでなく、都市住民の増加により消費と流通のあり方も大きく変わろうとしている。
日本の農産物の最大の輸出先は香港で、香港と中国大陸を足すと総輸出額の3分の1に達する。輸入についてみると、冷凍・生鮮野菜や、コンビニやファストフードなどで使われる鶏肉調製品の相当量が中国から来たものだ。中国の農と食がどう変わるかということと、私たちはもはや無縁ではいられない。
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