「イラン叩き」と軍需産業の支持獲得
トランプ大統領は米軍の無人偵察機が撃墜されると、報復措置としてイランへの軍事攻撃を一旦承認しましたが、直前に撤回しました。米メディアによれば、その後イラン軍にサイバー攻撃を仕掛け、さらに最高指導者ハメネイ師にも経済制裁を科して圧力を強めています。
核問題を巡る「イラン叩き」は、票と政治献金に結びつきます。まずトランプ大統領は、親イスラエル及び反イランの立場を明確に打ち出して、キリスト教右派や保守強硬派のユダヤ教徒の票獲得を狙っています。
次に、1979年11月に発生したイラン米国大使館人質事件が原因で、イランに対してアレルギーや不信感がある世代にも、トランプ大統領は支持を訴えている可能性があります。
さらに、支持基盤の一角を成す軍需産業からの支持獲得があります。これは看過できません。
トランプ大統領は北朝鮮の核・ミサイル開発問題で空母打撃群を朝鮮半島へ派遣し、自ら危機的状況を演出することで、日本を含めた隣国への米国製武器売却に成功しました。同様にイラン核問題おいても、「イランよ、
イランの隣国に対して米国製武器売却をして、軍需産業からの政治献金を得るという意図が透けて見えます。
メキシコは「支持者結束の道具」
トランプ大統領はメキシコからの不法移民流入の問題を、支持者結束のための道具として活用しています。
野党民主党の議員はメキシコとの国境にある難民申請者の収容施設が劣悪な状態にあると主張し、トランプ政権を激しく非難しています。下院監視・政府改革小委員会のジェリー・コノリー委員長(民主党・バージニア州第11選挙区選出)は公聴会で、移民収容施設にある檻の中に入れられコンクリートの上で寝ていると言われている難民の子供たちの人権に訴えました。
これに対してトランプ大統領は、「収容施設内の環境に不満なら、米国に来るなと不法移民に伝えればいい」と自身のツイッターに投稿し、反論しています。人権軽視ともとれるトランプ大統領の発言ですが、反不法移民の支持者は拍手喝采をするでしょう。
トランプ大統領は、20年に実施される米国勢調査で「あなたは市民権を持っていますか」という市民権に関する質問を追加するために大統領令の発動をちらつかせてきました。しかし同大統領は7月11日、それを断念しました。
国勢調査に市民権の有無を問う質問が加わると、不法移民は回答を拒否するので、実際の人口よりも少なく計算される公算が高まります。仮にそうなれば、トランプ大統領率いる与党共和党に有利に働きます。
というのは、不法移民が多い民主党に有利な州における選挙人や下院議員数が減る可能性が高まるからです。選挙人と下院議員数は、米国市民のみならず不法移民も含めた人口比率によって各州に割り当てられています。
加えて、「反メキシコ」及び「反不法移民」の感情が強い支持基盤に対して、厳格に移民管理を実施しているという姿勢を示すトランプ大統領の意図もはっきりみえます。いずれにしても、メキシコからの不法移民流入は、「選挙の道具」としてかなり有効であることは確かです。
政治的利用価値の高いベネズエラ
トランプ大統領が6月18日に南部フロリダ州オーランドで再選出馬表明をしたことにより、選挙戦が本格化してきました。20人以上が乱立する米民主党候補には、バーニー・サンダース上院議員(無所属・東部バーモント州)、エリザベス・ウォーレン上院議員(民主党・東部マサチューセッツ州)及びカマラ・ハリス上院議員(民主党・西部カリフォルニア州)など左派系候補が含まれています。
各世論調査をみますと、支持率におけるトップ4には首位を維持している中道穏健派のジョー・バイデン前副大統領を除き、うえの3人の左派系候補が食い込んでいます。
トランプ集会で、トランプ大統領が民主党をベネズエラに喩えて「社会主義」と呼び、「米国はベネズエラのようには決してならない」と語気を強めて語ると、支持者は大歓声を上げます。
ホワイトハウスで7月11日に開催した「ソーシャル・メディア・サミット」においても、トランプ大統領はハイパーインフレーションと政情不安が続く社会主義国ベネズエラに触れました。そこで同大統領は、来年の大統領選挙で民主党が勝利を収め、米国が社会主義に向かわないように、有権者に対して警告を発しています。ベネズエラは政治的利用価値が高い国であることは間違いありません。