2024年12月8日(日)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2019年6月27日

(wildpixel/gettyimages)

 今回のテーマは、「『タリフマン(関税男)』トランプの思惑」です。ドナルド・トランプ米大統領は、メディアからタリフマンと揶揄されています。

 トランプ政権は5月13日、携帯電話及びノートパソコンなどを含めた3000億ドル(約32兆円)相当の中国製品に対する第4弾の追加関税を課すと発表しました。これが発動されると、米国に輸入されるほぼ全ての中国製品に追加関税が課されることになります。一方メキシコには、追加関税を利用して同政府が不法移民対策に真剣に取り組むように迫り、合意を引き出しました。

 関税はトランプ大統領の貿易交渉の柱です。そこで本稿では、同大統領の関税に対する考え方を分析します。

なぜトランプは多国間よりも2国間を好むのか?

 トランプ大統領は6月6日、第2次世界大戦のノルマンディー上陸作戦75年式典に参加しました。その際、保守系の米FOXニュースとのインタビューの中で、関税について言及しました。

 「もし(関税の)適切な使い方を知っているならば、関税は美しいものである」

 トランプ大統領は関税にかなり惚れ込んでいます。以前、「中国とは追加関税なしには交渉できない」と本音を漏らしたことがありました。

 トランプ大統領にとって、関税は貿易交渉において相手国に「脅しをかける最高の武器」であることは間違いありません。米議会の承認を得ずに関税を使って相手国に圧力をかけることができる点も、同大統領には魅力的でしょう。

 トランプ大統領は、「自分は関税の適切な使い方」を熟知しているといいたいのです。ではどのような場面で関税は、最も効果を発揮すると考えているのでしょうか。

 率直に言ってしまえば、多国間の貿易ルールの下では使用できないので、追加関税は2国間の貿易交渉において相手国に対して有効であると、トランプ大統領は信じているフシがあります。

 たとえば、環太平洋経済連携協定(TPP)離脱は、トランプ大統領の「オバマ嫌い」並びに「オバマのレガシー潰し」によるものであるかもしれませんが、それらに加えて2国間の貿易交渉における追加関税を活用した米国の優位性を狙ったものであることも看過できません。

なぜ「中国叩き」をするのか?

再選出馬を表明するトランプ米大統領(海野撮影@フロリダ州オーランド)

 トランプ大統領は6月11日、自身のツイッターに「関税は素晴らしい道具だ」「歳入を生む」と投稿しました。貿易相手国が支払う関税で、財務省の歳入が増加したと主張しています。中国やメキシコに進出している「企業が米国に戻ってくる」ともつぶやき、追加関税をレバレッジ(てこの力)にした自身の交渉戦略を正当化しました。

 さらに、トランプ大統領は「中国は米国がかけた25%の追加関税の効果を減らそうと通貨切り下げを行い、企業に対して補助金を出している」と投稿し、中国を激しく非難しました。 

 以前紹介しましたが、トランプ支持者を対象に米南部フロリダ州及び東部ペンシルべニア州などで現地ヒアリング調査を行うと、彼らは「中国は米国を利用してきた」と述べて、不公平感と怒りを示しました。「中国叩き」の狙いは、「支持者固め」と「票の獲得」です。

 ちなみに、1980年代の日米貿易摩擦において「日本叩き」が米議員の票に結び付いたのと同じ構図になっています。

 さて、今週大阪で米中首脳会談が開催されますが、協議はその後も継続するというのが大方の見方です。というのは、トランプ大統領は20年11月3日の米大統領選挙の投票日を見据えて、会談後も中国に追加関税の脅しをかけて「反中国の支持者」をつなぎとめていく必要があるからです。米中貿易戦争における「勝利宣言」は、おそらく来年秋の米大統領テレビ討論会が始まる直前になるかもしれません。


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