2024年6月20日(木)

VALUE MAKER

2019年12月28日

 完成した卓上型「かまどさん」は、固形燃料でご飯が炊ける。1合なら燃料1個、3合なら3個といった具合だ。かまどさんの上にコメと水を入れた専用の釜を乗せ、木製の蓋(ふた)を被(かぶ)せる。炊き上がりに30分ほどかかるが、本格的なかまど炊きご飯が自宅の食卓の上で味わえる。

 発表すると、評判が口コミでジワジワと広がった。

 そんな折、それが春日大社の権宮司だった岡本彰夫さんの目に留まる。

 「かまどさんは火の神さんが宿るもの。だから、さん付けで呼び大切に扱われてきたんや」

 かまどは単なるモノではない。古(いにしえ)から人々は八百万の神を敬い崇めてきた。宮奥さんは、かまどづくりは襟を正して向き合うものだ、と改めて気を引き締め直したという。

 日本古来からの文物に通じる岡本さんはしばしば、「生活に密着していた当たり前のものほど、後世に残りにくい」と話す。

 当たり前だからこそ、文書などに書き残されず、使われなくなった途端、どう使われていたかが分からなくなる、というのである。

 おそらく「かまどさん」もそのひとつになるのだろう。もはやかまどさんを使って調理ができる人は全国でも数少ないのではないか。

 宮奥さんの作る卓上型「かまどさん」は、使い方の「模型」としても機能する。そうか、昔の人はこうやってご飯を炊いていたのだな、ということが腑(ふ)に落ちるわけだ。

 ちなみにこの「かまどさん」、最もシンプルなタイプで1基13万円(税込み)する。一見高いように思うかもしれないが、決して儲(もう)かる品ではない。

 さらに「高級バージョン」は20万円くらいになる。といっても宮奥さんの手間賃が大きく増えるわけではない。釜を据える口のところの漆喰(しっくり)が崩れないようにする「カマツバ」と呼ばれる金属製の輪など、外注で手作りしてもらうため、驚くほどコストがかかるのだ。

左:現在では見かけることができなくなった特注仕様の銅製の「カマツバ」
右:お釜とかまどが接する部分に「カマツバ」が付けられている

 「昔は鋳物でできた様々なサイズのものが安い値段で売られていたのですが、今は誰も使わないのですべて特注です」と宮奥さん。一度滅びたものを復活させようとすると、すべてが「規格外」になるため、猛烈な制作費がかかる。

 一つ一つ手作りで、コテさばきひとつで風合いが違う。注文制作で一つずつにシリアルナンバーが付いている。18年末の段階で「57」。ざっと50基が売れている。


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