2024年11月22日(金)

VALUE MAKER

2019年12月28日

宇陀への感謝の気持ち

 宮奥さんは自身の卓上かまどに「宇陀かまど」と命名した。生まれ育った宇陀への感謝の気持ちを込めている。

 宮奥さんの住む宇陀は、古事記にも登場する歴史を帯びた地域で、都と伊勢神宮などを結ぶ街道筋にあった。歴史を持つ旧家が今でも多く残り、漆喰の土蔵や壁の修復、作り直しといった伝統的な左官の仕事が比較的多くある土地柄だ。

 父の下で修業を積んだが、宇陀という「場」がなければ、左官職人としての今の宮奥さんはない。

 また、奈良は多くの神社仏閣があり、文化財修理の仕事も少なくない。宮奥さんは今、奈良「南都七大寺」の一つ薬師寺の国宝東塔の解体修理に関わる。昔の左官職人の技に舌を巻くことしばしばだという。

 ちなみに、土壁などは解体時に崩しても、再びその土を練り直し再利用するという。白鳳時代の職人がさわったであろう土を、今、自分がさわっているのだと考えると感動的だという。

 ところが最近では土をさわったことがない左官職人が増えているのだという。近代的な工法では、そもそも土壁自体が姿を消している。合板などのうえに、薄く壁材を塗り付けるような仕事ばかりが増えているというのだ。

 宮奥さんの「宇陀かまど」をさわると、何ともやさしい土の肌触りがする。滑らかな曲面をコテ一本で仕上げていく技は、そう簡単には磨けない。

仕上げ塗りをする前のかまどの表面

 住み方のスタイルが変わり、住宅や住宅設備が「進化」を遂げていくなかで、古くからあるものを守り続けていくことは極めて困難だ。伝統技術を守るためだからと言って、白壁の土蔵を新たに建てるというのは簡単にはできない。

 卓上型の宇陀かまどは、台所の土間に鎮座する昔ながらの「かまどさん」ではないが、かまどさんがどんな使われ方をしていたかという日本人が受け継いできた「価値」や「想い」を確かに後世へと伝えていくことだろう。

  
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◆Wedge2019年3月号より

 

 

 

 

 

 

 


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