2022年10月2日(日)

VALUE MAKER

2019年12月28日

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磯山友幸 (いそやま・ともゆき)

ジャーナリスト

千葉商科大学教授(4月から)。1987年日本経済新聞社に入社。フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長などを務め、11年に独立。著書に『2022年、働き方はこうなる』(PHPビジネス新書)など。

 「かまどさん」をご存じだろうか。「おくどさん」「かまさん」「へっついさん」などともいう。地域によって呼び名は様々だが、昔はたいがいどこの家にもあった。土間の台所に作られた炊事用の「かまど」のことである。

【宮奥淳司(みやおく・じゅんじ)
1968年生まれ。専門学校卒業後、奈良市内の一般企業に就職するも、20歳のときに父の仕事を継ぐことを決意する。その後、父のもとで技術を磨き、2002年度には1級左官技能士の国家試験で金賞を受賞した。(写真・湯澤 毅、以下同)

 ガスコンロや電気炊飯器の普及と共にすっかり姿を消し、今ではほとんど見なくなった。薪(まき)をくべて裸火を燃やすことが難しくなり、古い家で存在はしていても、まったく使っていないケースが多い。新しく作ったり、修理するのは、よほどの伝統を重んじる旧家か、趣味人に限られる。

 奈良県宇陀市で左官業を営む宮奥淳司さんは、そんな「かまどさん」を何とか後世に残す方法はないかと考えてきた。かまどを作る左官塗りの技術を伝承する職人も全国から姿を消しつつあった。

 きっかけは10年ほど前のこと。奈良市の旧市街地である「奈良町」の町づくり活動をしていた社団法人から、「かまどさん」を作ってほしいという仕事が舞い込んだ。

 それらの施工事例をホームページに載せると、うちでも作ってくれないか、という依頼が来るようになった。全国の飲食店などから年に2、3件の割合で注文が来るようになったのだ。かまど炊きのご飯がブームになったことが追い風になったようだった。

 だが、年にわずか数件では、世の中にアピールするには不十分で、「後世に残す」ことにはならない。もっと身近に「かまどさん」を感じてもらう方法はないか。

火の神が宿るかまどさん

卓上でも使うことができる完成形の「宇陀かまど」

 2015年頃のこと。宮奥さんは卓上で使える「かまどさん」を作り始めた。全国の左官職人も思い思いの卓上型かまどを作っていたが、自身の理想とする機能性・形にこだわった。

 卓上で使えるかまどは必要最小限の大きさ・重量でなければならない。強度を優先すると大きく重くなる。扱いやすさを優先すると華奢(きゃしゃ)な本体になってしまう。相反する要素を共存させることに苦労した。試行錯誤の連続の末に独創的な卓上かまどが誕生する。

 思わず撫(な)でてみたくなる丸みを帯びた愛らしい形、吉祥文様(きっしょうもんよう)にインスパイアされ、同時に吸排気効率の良い焚口(たきぐち)のデザイン、置く場所の傷付き防止に木製底板を組み込んだアイデアなどが認められ、16年には意匠登録が通る。

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