「我々の縫製技術を生かすのは、この方向だと思いました。イタリアのスーツを工場で分解して徹底的に研究しました」
既製服でありながら、日本のテーラー技術にイタリアのサルトの手法を取り入れて手間暇をかけて作るスーツは、目の肥えたセレクトショップのバイヤーや、イタリア人の間でも瞬く間に評判になる。
こうして、60年代のアイビーブームから知る人ぞ知るブランドとして実力を蓄え続けてきたリングヂャケットは、世界にその名を知られるようになったのだ。
貝塚市にある工場を見学させてもらう。さぞや大きくて立派な工場かと思いきや、約50人の社員が働く貝塚工場は、なんと周りを民家に囲まれた看板もない小さな町工場である。
「びっくりしたでしょう。私も初めて来た時は大丈夫やろか? と思いました。けど大阪のこの場所で、このくらいの規模の方がモノ作りに丁度ええんですわ」
そう言って案内してくれたのは、工場長の村上義夫さん。長年、大阪のアパレル製造卸業者が集まる谷町で縫製職人として働いていた大ベテランだ。
リングヂャケットのスーツは何が凄いかと言うと、軽くてやわらかな着心地。そのために、1枚の布に何度もアイロンをかけて身体の丸みに沿わせ、いせ込みという巧みな縫製技術で立体的な服に作り上げる。肩パッドなどの副素材は極力使わない。手縫いと同じ仕上がりになるようにミシンの速度も極力遅くして縫う。
だからか、工場ではあまりミシンの音が聞こえない。仕上がりを左右するプレスも一つ一つ丁寧なアイロンワークで、まるで高級なクリーニング店のようだ。
この秋はスーツを新調しようかな。そうそう、面倒でも座る時は前釦をはずす。立ったら留める。これ、基本のキ。この仕草だけで格段にお洒落に見られますよ。
(写真・阿部吉泰)
●株式会社リングヂャケット
<所在地>本社:大阪市北区西天満2-9-14北ビル3号館1F
☎06-6316-8488
工場:大阪府貝塚市窪田206
<URL>http://www.ringjacket.co.jp/
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