リングヂャケットの直営店「リングヂャケットマイスター206淀屋橋店」は大阪のビジネスマンが行き交う街、淀屋橋のオフィスビルに入っている。秋冬物のスーツやジャケットがハンガーに整然と掛けられたラグジュアリーな店内には、国内外から服好きが訪れる。
創業は、昭和29年(1954)。時代はまさにアイビーブームを迎えようとしていた。創業者の福島乗一(じょういち)さんは、あのVAN(ヴァン)ヂャケット※を創業したアイビーブームの仕掛け人、石津謙介さんと同郷の岡山出身で2人は盟友であった。
※1960~70年代、日本のファッションシーンを牽引したアパレル企業。「みゆき族」の間でも流行した
当時、VANヂャケットのスーツはリングヂャケットで作っていた。社名をヂャケットと表記するのも、石津さんが命名したからである。
「まぁ石津さんのシャレで、VANはバンバンお金を儲ける会社だからバン。お金は丸いのでリングというわけです」
苦笑いしながら社名の由来を教えてくれたのは、現社長の福島薫一(くんいち)さんだ。明るいネイビーのスーツに、秋らしくスエードの靴の色と合わせた茶のネクタイ。さすがお洒落な着こなしです。
父親の乗一さんも大変お洒落な人で、保険会社に勤めていたが、いいスーツは人に頼んでも作れない。ならばと自分で熟練の職人を集めて工房を立ち上げた。それがリングヂャケットの始まりである。
やがて東京に進出したVANヂャケットは事業を拡げすぎて、昭和53年、アイビーブームの終焉で倒産してしまう。リングヂャケットは地元の大阪にとどまり、細々と、しかし品質にこだわってスーツ作りを続けていた。
昭和58年、薫一さんが入社する。転機になったのは、90年代の初めに巻き起こったクラシコイタリアブームだ。平成7年(1995)、社長に就任した薫一さんは、イタリア各地に何度も訪れてクラシコイタリアの本場のサルト(仕立て)職人の技術を勉強する。