2024年4月26日(金)

中東を読み解く

2019年10月11日

クルド人の新たな庇護者

 今後の戦争の見通しはどうなるのか。トランプ大統領は侵攻に青信号を与えたという批判に対応するのに躍起だ。「侵攻を容認したことはないし、支持もしない」「トルコが“一線”を超えれば、経済的に大きな打撃を与える」などと弁明に終始し、一転して「侵攻は悪い考えだ」と批判的な姿勢を見せている。

 大統領は“一線”については特定していないが、米当局者はトルコがクルド人の民族浄化のような行動や民間地域を無差別に攻撃した場合がそれに当たることを示唆している。いったん侵攻を容認したトランプ大統領がそれを否定するような言動を行っていることで、エルドアン大統領は大々的に南下するような侵攻作戦はせず、国境から十数キロ程度を制圧することで踏みとどまるのではないかとの観測が強い。

 エルドアン大統領は11月に訪米、ホワイトハウスでトランプ大統領と会談する予定になっており、その会談まではトランプ氏の日々のツイッターの調子をうかがいながら、同氏の逆鱗に触れないよう注意深く侵攻作戦を展開する腹積もりと見られている。

 攻撃されたクルド人側はどう反撃しようというのか。空軍力など圧倒的に優位な軍事力を持つトルコ軍に正面からまともな戦闘を挑んでも勝機はないだろう。「クルド人はゲリラ戦で対抗するしかない」(ベイルート筋)というのが軍事専門家の一般的な見方だ。ヒット・エンド・ランのゲリラ戦でトルコ軍を泥沼に引きずり込むというやり方だ。

 だが、クルド人も補給や資金面で支援してくれる後ろ盾、「庇護者」が必要だ。

 これまで後ろ盾となってきた米国からは「裏切られて見捨てられた」(同)。シリアのアサド政権との反トルコ連合形成を模索したが、「米国の手先とは付き合えない」と冷たくあしらわれた。

 「やはりロシアのプーチンにすがるしかない」(アナリスト)。これがクルド人にとって唯一の選択肢なのかもしれない。プーチン大統領はイランとともにアサド政権の後ろ盾であり、トルコのエルドアン大統領とも関係が良好。米国と仲たがいしてまでロシア製の防空システムを購入したことでも分かるように、2人の関係は相当強力だ。

 すでにシリアの将来のキングメーカー的な地位を確立しているプーチン氏にとっても、クルド人という持ち札を加えることは中東での影響力拡大に大きなプラスになるし、対米けん制のカードにも使える。クルド人の頼みを入れ、トルコとクルド人の間の調停に乗り出すかもしれない。

 ただ、ロシアが調停に乗り出したとしても、トルコがいったん占領したシリア北東部を完全に手放すことはなく、侵攻前の元の状態に戻る可能性は低い。クルド人は米国の支援を得て、いったんは北東部を支配下に置き、宿願だった「独立国家樹立」の夢を見た。だが、夢ははかなく消え、せいぜい獲得できるのは「自治権の強化」ぐらいのものではないか。クルド人の受難は続く。

  
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