2024年6月21日(金)

立花聡の「世界ビジネス見聞録」

2019年10月16日

香港は「捨て駒」の宿命から逃げ出せない

 トランプ氏にとって実に都合のいい交渉だった。それがなぜできたかというと、香港問題の存在は無視できない。

 習近平政権はいま香港問題で手を焼いている。米国の介入を避けるという意味において、香港問題は米中通商交渉の取引材料になり得る。トランプ氏は早い段階で中国に「武力鎮圧なら、貿易交渉の合意は困難になる」と釘を刺してきた。それは本音だっただろう。

 今回の第1段階の合意にあたって、トランプ氏は香港デモについて「当初に比べてトーンが下がっている。数か月前に大勢のデモ参加者を見たが、今は人数が随分減った。そのうち、香港問題は自己完結的に解決するだろう」と軽く流した。これを見ると、やはり取引材料にされたように思えてならない。

 したがって、「香港人権法案」が米議会両院の本会議で可決されても、トランプ大統領がすぐに署名するかどうかは不透明である。そうした事情を踏まえて、トランプ氏を牽制する目的で民主党はトランプ氏以上の猛烈な反中姿勢を見せ、法案署名を迫る可能性も否定できない。そうなると、トランプ大統領はやむを得ず法案に署名するだろう。習近平氏には「民主党の圧力」のせいにすればよく、「ほら、俺以上に民主党の連中が反中だから、大統領になったら困るんでしょう」とすら言えてしまうのである。

 ここまでくると、さすがに中国も黙っていられない。トランプ氏との関係がどうであれ、約束を反故にしてもおかしくない。農産品も買わなくなったり、金融サービス市場の開放もやめたりして報復に乗り出すだろう。そうなると、中国は完全な悪人になり、米国の農民もウォール街も中国への怒りを爆発させ、挙国一致の反中体制を組み、最終的に中国を構造改革に追い込むと。

 現状を見るととてもそこまで事態の進展を待てないようだ。10月15日付けのウォールストリートジャーナルによれば、中国はさっそくも「第1段階」の合意について「更なる交渉が必要だ」と言いだしている。このままだと、「第1段階」の合意署名に至らない可能性も出てくる。

気になる香港だが、やはり国際政治に翻弄され、ゲームの「捨て駒」となる宿命から逃げ出せないかもしれない(参照:『香港問題の本質とは?金融センターが国際政治の「捨て駒」になる道』)。

  
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