2024年11月22日(金)

中東を読み解く

2019年10月22日

米軍指導者、「損得至上主義」を批判

 大統領が撤退をたびたび持ち出しているのは「紛争地から米兵を引き揚げる」という選挙の公約があるからだが、その背景には持論の「米第一主義」「損得至上主義」がある。

 大統領は撤退を表明して以来「われわれは自分たちの利益にとって重要なところで戦う」(7日)「なぜアサドのために戦わなければならないのか」(14日)「戦争はトルコとクルド人の土地争いで、米国は関係ない」などと発言した。さらにサウジアラビアについてたびたび、「彼らはわれわれが助けることの対価を支払うことに同意している」と称賛しており、その「損得至上主義」はますます前面に出始めている。

 こうした大統領の姿勢や撤退をめぐる決定に対し、危機感を深める軍指導者らの批判がこれまでにないほど強まっているのは特筆すべきことだ。米軍高官は米紙に対し「米国がまとめたトルコとクルド人の停戦合意はトルコへの降伏だ。IS作戦に関与した米軍人は怒り狂っている」と指摘しており、「最高司令官」への不信感がかつてないほど高まっていることを明らかにしている。

 中東を統括したボーテル前中央軍司令官は「撤退はISとの戦いの価値を台無しにし、米国の信頼性を傷つけた」と寄稿。元特殊作戦軍司令官のマクラベン提督は大統領の交代さえ呼び掛けたとされている。大統領に対するこうした批判が強まっていることも、200人の部隊を残留させるという政策転換につながった一因のようだ。

 肝心のシリア北部でのトルコ軍とクルド人の停戦は10月22日に期限切れとなるが、戦闘は現在、散発的なものにとどまっており、停戦協定に基づき、クルド人の武装組織「人民防衛隊」(YPG)が交戦地域だった国境の町ラスアルアインなどから撤退した。

 トルコのエルドアン大統領はクルド人が「安全地帯」から完全撤退しなければ、攻撃を続けると警告しているが、「安全地帯」の範囲について、トルコ側と米国の理解に相当の食い違いがあり、停戦期限が切れた後、停戦が維持されるのかどうかは予断を許さない。

 エルドアン大統領はこの停戦期限の日、ロシアのソチに飛び、プーチン大統領とシリア情勢を中心に会談する見通しだ。「安全地帯」の中にある町コバニにはアサド政権軍とロシア軍部隊がすでに入っており、この扱いが会談の焦点の1つとなる。エルドアン氏は11月13日、今度はホワイトハウスでトランプ大統領と会談する予定で、米ロ首脳を天秤にかけるような同氏のしたたかな外交手腕にあらためて注目が集まってきた。

  
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