全てを失ったままで希望を持てない若者たち
キャンプに暮らす難民の50パーセント以上が18歳未満である。彼らの多くは目の前で家族を殺されたり、自らが怪我を負ったりし、女性は性的暴行に遭いトラウマを抱えケアが必要とされている。教育や就業の機会もほとんど無く、何もすることなくただ時間を持て余す若者も多数見受けられた。
「以前のように学校に通いたい」と多くの若者が思っているが、定住化を避けるために、政府による公式な教育は提供されていない。国連やNGOなどの支援で運営される学習センターは4歳から14歳の子供たちを対象としているが、それ以上の年齢になると高等教育を受けることは許容されておらず困難である。希望や目標を持つことが難しい若者が過激な思想に陥ったり犯罪に手を染めたりといった社会的不安も危惧されている。
19歳の女性は2年前に生活のすべてが奪われ、いまだ一つもその時のものが戻ってきていない。ミャンマー政府による「民族浄化」が起きた2017年8月、突然兵士が村にやってきて「ムスリムはさっさと出ていけ、さもなければ殺す」と脅された。歩いて7、8日間かけてようやくキャンプにたどり着く。土地、家畜、店、バイクなど財産は全て失った。「障害を持つ親戚の子供は連れてくることが出来なかった」と悔やむ。「現在住んでいる家は井戸とトイレまで遠くて不便。水も汚いので病気が心配」と現状を訴える。
現在はボランティアで3歳から5歳の子供たち約30人にミャンマー語と英語を教えている。絵を描くことが好きで、手作りの教材で授業を行い、子供たちにも好評だ。ただ、「9ヶ月の息子は生まれながらに国籍が有りません」と嘆く。
ミャンマーとバングラデシュの両政府はロヒンギャの早期帰還に合意したが、昨年の11月と今年の8月に行われた計画はいずれも希望者は現れなかった。多くのロヒンギャが帰還にあたり、ミャンマー政府がロヒンギャを民族と認め国籍を付与すること。宗教、教育、移動などの基本的権利を認め、失った財産や土地の返還をすること。そして何より命の安全の保証を条件としている。ミャンマー政府が帰還受け入れに本腰を入れて取り組む気配は未だ見受けられない。帰還への見通しは立たないまま、キャンプでの暮らしは長期化の様相を呈している。
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。