競争により電力料金は下がるのか
電力会社に地域独占が認められるのは、競争して複数の送電線を敷設しても無駄な投資になるので、1社が設備を持てばよいからだ。また、発電設備には規模の経済が働くので、競争して小型の発電所を多く作るより、大型の発電所を建設し供給を行うほうがコストは安くなることもあった。
1980年代頃から、熱と電気を同時に作るために効率が極めて高くなる熱電併給設備などの登場により、小型の設備でも電力を相対的に安く作ることが可能になった。このために米国、欧州などでは、電力を自由化し供給者を増やすことで電力料金を引き下げる試みが登場した。
カリフォルニア州では、1998年から、地域電力会社が保有していた送電部門の運用を切り離し、独立系統運用者に任せる一方、発電部門を市場に任せる自由化を行った。発電事業者は全ての卸電力を市場で取引することが要求されたため、卸電力価格は完全に需給関係で決まることになった。
事業者を増やし競争を作り出すために火力発電設備の2分の1を売却することを州政府に要求された地域電力会社は、燃料価格次第でコストが変動する火力発電設備を嫌い、ほぼ全ての火力発電所を売却し、原子力と水力発電設備だけを保有することになった。発電設備を購入したのは州外の電力会社の関係会社など11社だったが、平均すると簿価の2倍の価格を設備に支払ったとの分析がある。(*1)
電力料金
月間50ドルから120ドルに
これから競争を行うのに設備を高く買うのは理屈に合わないが、新規参入者には成算があった。
自由化後に新規参入した発電事業者は、時々高い価格を卸市場に出し、他の事業者の反応を探っていたと言われているが、2000年の夏前から多くの発電所が停止し、卸電力価格が急騰し始めた。サンディエゴ地区以外の地域電力会社の小売価格は凍結されていたが、凍結されていなかったサンディエゴ地区では3ヵ月間で標準家庭の電力料金は月間50ドルから120ドルになった。
自由化前には、電力料金は最大50%下がるとの予想があったが、実際は料金の急騰だった。この結果は、新規参入者が設備を2倍の価格で購入した時点で予測されたことだ。地域電力会社の2倍の減価償却コストを負担した上に、同じ燃料を使用し料金を引き下げることが出来るはずはない。
新規参入者は、料金上昇の確信があったからこそ、大きな買収資金を負担したのだ。市場経済では供給を絞れば価格は急騰する。エンロンなどの事業者が発電所の意図的な停止により市場操作を行ったことが後ほど録音テープで明らかになっている。
*1 Timothy P. Duane, “Regulation’s Rationale: Learning from the California Energy Crisis”, Yale Journal on Regulation Volume 19, Number 2 (Summer 2002), pp.471-540,