2024年11月22日(金)

World Energy Watch

2012年4月23日

安く電気を供給できる事業者がいなければ意味がない

 発電部門の自由化を行い電力料金が下がるのは、地域電力会社より安く発電できる事業者が多く出てくる場合だ。

 米国のように天然ガスのパイプラインが発達していない日本で、安く発電することが可能だろうか。日本では水力を保有する一部の発電事業者を除くと、化石燃料で発電を行っている。大型の自家発電設備では石炭の使用が多いが、大型の港湾設備を保有していない多くの自家発電設備は石油あるいはLNGを燃料としている。

2012年1月の原油、LNGの輸入価格から計算すると、1kWhの発電に必要な燃料代金は石油火力で13-14円、LNG火力で8-9円だ。減価償却費、操業費、送配電費用を考えると、1kWhの平均の売値が16円の地域電力会社と競争するのは、かなり難しいレベルだ。競争可能なのは熱電併給設備などを保有する一部の事業者だけだろう。自由化を行っても、安価に電気を供給できる事業者が多く出てくる可能性はない。

電力価格は需要をどこまでコントロールできるのか

 スマートメーターの普及により、これからは家庭の電力使用量もリアルタイムで把握することが可能になるだろう。そうなれば、電力需要がピークになる時には、高い料金を適用することも可能になる。

 需要に応じ料金が変動すれば、電力料金が高くなった際には需要を抑えることが可能になり、ピーク電源用の設備投資を抑制し、将来の電力料金引き下げにつながると言われる。それでは、電力価格の変動は需要量にどの程度影響を与えるのだろうか。

 経済学では、需要の価格弾性値として知られる数字だ。価格の変動に対し需要がどの程度変動するかを調べた米国の研究では、塩、卵などの生活必需品の価格弾性値は0.1から0.3程度で低い。価格が上がっても、数量を減らすことが難しいので当然の結果だ。

代替物がない電気
価格上昇でも需要削減は困難

 電力の場合にはどうだろうか。様々な研究結果がある。弾性値は研究により大きく異なるが、米国では平均0.3程度と言われている。つまり価格が10%上昇すれば、需要が3%下落するということだ。実際にはどうだろうか。

 カリフォルニア電力危機の際に、電力価格の上昇が需要に与える影響に関するデータがある。2000年夏の電力供給量減少時にサンディエゴ地区の電力料金は3カ月間で2.4倍弱になった。このときの電力需要の減少を研究した論文がある。(*2)

 結論として電力料金は上昇したが、電力需要は落ちなかった。しかも、前年同期を上回る需要だった。これには前年より気温が高めに推移したことも影響している。気温要因を調整すると、需要は13%減少していると計算されている。弾性値はかなり低い。つまり、電力は必需品であり、代替物がないので価格が上昇しても、直ぐに需要を削減することは難しいということだ。中長期には省エネ製品への買い換えにより需要が減少するが、直ぐには大きな効果は得られない。

*2 Peter C, Reiss, and Matthew W. White, “What changes energy consumption ? Prices and public pressures” RAND journal of economics vol. 39, No. 3 (Autumn 2008), pp.636-663,


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