野嶋剛が読み解くアジア最新事情

2019年12月25日

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野嶋 剛 (のじま・つよし)

ジャーナリスト

1968年生れ。ジャーナリスト。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、シンガポール支局長や台北支局長として中国や台湾、アジア関連の報道に携わる。2016年4月からフリーに。著書に『イラク戦争従軍記』(朝日新聞社)、『ふたつの故宮博物院』(新潮選書)、『謎の名画・清明上河図』(勉誠出版)、『銀輪の巨人ジャイアント』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)。訳書に『チャイニーズ・ライフ』(明石書店)。最新刊は『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』(小学館)。公式HPは https://nojimatsuyoshi.com

マカオ経済の「多元化」

 しかし、カジノの総収入がピークに達したのは2014年で、2015年、2016年は急激に減少した。最大の理由は習近平政権が展開した反腐敗闘争だ。中国の党や政府、企業の幹部たちがマカオで豪遊することが下火になった。

 マカオの政府収入の8割をカジノ関連収入が占めていると言われる。その意味では、カジノ単一経済依存の脱却はマカオの悲願でもある。ただ、マカオの面積は30平方キロメートル足らずで、人口は60万人。独自でカジノと観光以外の産業を探し出すのはかなりの難度がある。

 そこに、マカオと香港や中国を連結させる海上大橋が完成し、そしていまや香港情勢の変化によって、マカオに対して、中国政府は、香港の金融センターの地位を補強できるような株式市場や債権市場の整備に本腰を入れて乗り出した、という情報が地元メディアに報じられている。習近平演説でもマカオ経済の「多元化」、つまり脱・カジノが言及されている。

 もちろん、マカオが完全に香港にとって代わるなど現実的ではない。マカオの土地は利用可能な用地が限界に達しており、これ以上の人口増に短期的に応じることは難しい。さらに、カジノ経営と観光業に特化して育成されてきたマカオ人の能力では、高度な経済・法的知識とスキル、英語力が求められる金融センターを一朝一夕で立ち上げるのは夢物語であろう。

 金融センターとなるには、自由な情報の流通が求められるが、マカオでは中国のようなインターネット規制がないとはいえ、メディアは政府べったりで、自由な情報の流通が実現するとは思えない。マカオの賀一誠・行政長官自身もメディアの取材に「マカオはコモン・ロー地域ではないので金融センターにはなれない」と認めている。

 それでも、北京の中央政府がマカオにテコ入れをする姿勢を見せるだけで香港の社会や経済界にはプレッシャーになるはずだ。習近平によるマカオ称賛には、二重三重のメッセージが込められていると見るべきであろう。マカオの重要性は香港の混乱が続くほど相対的に上がっていく。今後もマカオの政治・経済は香港情勢とも密接に関わりながら動いていくだろう。

  
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