今年5月、アジアで初めて同性婚が合法化された台湾。映画でも、性的マイノリティ(LGBT)問題が絡んだ作品が多く制作され、『藍色夏恋』『GF*BF』など商業的な成功を納めたものも少なくない。その台湾で2018年に公開されて話題を呼んだ映画「バオバオ フツウの家族」(原題『親愛的卵男日記』、謝光誠監督)が9月末から日本で上映が始まる。
本作は、結ばれた同性カップルが「出産」や「子ども」という「次」の問題にどう向き合うかをテーマとしている。同性婚が一般化したあと、その次に考えることになる「妊活」の問題を見据えた作品である。
物語の舞台はロンドンと台湾。ジョアンとシンディ、チャールズとティムという、それぞれゲイとレズビアンの2組の同性カップルが知り合い、子供を持ちたいという願望から物語が動き出す。
お互いが望んでいる「子ども」のために協力するのだが、次第に予想外の事態に巻き込まれ、傷つきながら、あるべき「家族」の姿を模索していくというストーリーだ。同性カップルにとっての「妊活」の意味と難しさを問いかける内容となっており、台湾の同性婚合法化で日本でもこの問題への関心が高まるなかでの上映というところは、非常にタイムリーである。
この作品でゲイカップルの1人を演じているのは、台湾を拠点に東アジアで活躍する日本人俳優の蔭山征彦さん(43)だ。
最近は、台湾の芸能シーンでも普通に台湾人に混じって活動する日本人の姿をよく見かける。日台の間には、高校野球映画『KANO』に描かれたような歴史をめぐる共通テーマがあり、日本人の役柄も必要とされている。ただ、蔭山さんは早い時期から台湾進出を果たし、独自の地位を築いてきた。
蔭山さんが台湾を初めて訪れたのは、1999 年の台湾大地震でのボランティアだった。北京留学を終えたばかりの蔭山さんは、その体験から台湾社会に興味を抱き、大学卒業後、台湾の大学への再留学を決意する。その台湾滞在中に、のちに台湾で映画監督となる日本人の北村豊晴さんと知り合い、日本人キャストとして声をかけられたのが映画出演のきっかけとなった。
その後いったん日本に帰国したが、台湾から出演の声がかかり、2003年に台湾に映画デビュー。拠点も台湾に移し、俳優だけではなく、香港のヒット映画『あなたを、想う。』(原題:念念、11月から日本公開)で脚本を担当して香港電影評論学会の脚本賞を受賞した。また、前述の『KANO』では、出演のほかに、演出や演技指導でもサポートを行っている。